元魔王様と初めての依頼 9
入り口の見張りを倒したので集落の中に入る。
突然の襲撃で多くのゴブリン達が狼狽えているが、上位種達は直ぐに対応しようと動く。
ジルと少し離れた場所から、魔法を扱うゴブリンメイジが火の矢を、ゴブリンアーチャーが弓を使って矢をそれぞれ放ってくる。
「ファイアアロー!」
ジルも同じく火の矢を放って応戦する。
だが数でも威力でも優っているジルの火の矢によって、ゴブリンの攻撃は一瞬で掻き消され本体も蹂躙されていく。
初級の火魔法とは思えない程の威力を発揮し、既に集落の中はかなりの火災被害が出ている。
集落の周りには木が無いので存分に火魔法を扱えるが、山火事にならない様に配慮して放ってはいる。
「ジル君、私達は救出に向かうから程々にね。」
「ゴブリンよりも味方の攻撃に死の危険を感じますね。」
そんな圧倒的な力を見せるジルに向けて、追い付いて集落に入った二人が言う。
どちらかと言えばやり過ぎたジルの巻き添えをくらう心配を二人はしているくらいだ。
エルーが集落にある一つの家の中に入っていく。
おそらく捕らえられた人族が中にいるのを、音や臭いで感じ取ったのだろう。
ゾットは入り口で中にゴブリンが侵入出来無い様に戦っている。
武器を使わず拳や足を使いゴブリンを次々と吹き飛ばしているので格闘家で合っていた。
「お、あいつは。」
次々と集落にある家から湧き出てくるゴブリン達を倒していると、初めて見るタイプの一際大きいゴブリンが姿を表した。
「先手必勝!」
ジルは先程と変わらず一瞬で距離を詰めると、迷わず首を落とす様に刀を振るう。
突然の事に反応が遅れ、ガードは間に合っていない。
「ギャギャ!」
だが直後響いたのは甲高い金属音。
ジルの振るった刀はゴブリンの首に届いていない。
「ほお、止めるか。」
首を落とす直前に大楯を持ったゴブリンが二体、後ろのゴブリンの姿を隠す様に間に割って入ってきたのだ。
攻撃を受け止められたジルに向けて、守られたゴブリンが反撃とばかりに手斧を振り下ろしてくる。
しかしかなり鈍重な攻撃であり、そんな攻撃がジルに当たる訳も無く、ひらりと躱して後退する。
ついでに万能鑑定を使って他とは違うゴブリンを視てみた。
「ジェネラルにガーディアンか。」
一際大きい個体はゴブリンジェネラルと言う名前で、先程聞いていた統率個体の一体だった。
そして大楯を持っているのはゴブリンガーディアンと言う名前だ。
攻撃手段は持って無さそうだが、守る事には非常に特化していそうなゴブリンである。
その手に持つ身の丈を覆う程の大楯もかなりの防御力がありそうだ。
「グギャア!」
ゴブリンジェネラルの指示か、両脇にいるゴブリンメイジが火球をジルに向けて飛ばしてくる。
さすがは統率個体と言うだけあって、今までの有象無象のゴブリンとは違い、しっかりと連携して戦う様だ。
近接攻撃はゴブリンジェネラル、遠距離攻撃はゴブリンメイジ、その両方を守るゴブリンガーディアンと言った編成だ。
冒険者の様なバランスの良い組み合わせをしている。
「まあ、だからどうしたと言う話しだがな。」
ジルは火球を躱しつつ再び全身する。
その動きに合わせてゴブリンガーディアンが大楯を構える。
そしてゴブリンジェネラルやゴブリンメイジがカウンターを狙う様に大楯の後ろで待機する。
先程刀を受け止める事が出来たので、大楯でまた防げると思っている様だ。
だがジルは今のところ準備運動の様な感覚で戦っていた。
対するゴブリンジェネラルは、既に統率個体として味方の強さを引き上げて戦闘をしていた。
なので拮抗している様に見えて、少しのきっかけであっさりと戦況が変わってしまう状態なのだった。
「上級火魔法、フレイムエンチャント!」
ジルが呟くと持っていた刀が熱を帯びて、火の粉を撒き散らし始める。
刀身もそれに合わせて、赤みがかった色に変わっていく。
その刀を大楯に向けて振るうと、まるで包丁で豆腐を切ったかの様に抵抗感が殆ど無く、あっさりと大楯ごとゴブリンガーディアンを焼き斬った。
そして返えす刃で後ろの三体も焼き斬る。
ほのかに肉の焼ける臭いがするが、ゴブリンの肉は不味くて食えた物では無いので、食欲をそそられる事は無い。
「悪く無い切れ味だな!」
そのまま視界に入るゴブリン達を次々に焼き斬っていく。
残念な事に今度は受け止めてくる様な個体はおらず、一方的な蹂躙が行われる。
遠目に見ていたゾットもその様子にとても驚いていた。
まさかこれ程一人で戦えるとは思っていなかったのだろう。
まだまだ全力には程遠いが、驚かせるには充分な実力であった。
「お待たせ、救出は完了よ。」
エルーの声を受けて戦いながら振り向くと、ボロボロに破れた服を着た三人の女性が家から出てきた。
捕えられていた者達は全員無事に確保出来た様であった。
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