元魔王様と初めての依頼 7
ジル達はゴブリンの村を探してゴブリンの集団を追跡してきたが、かなり魔の森の奥まで潜ってきていた。
これでは今まで冒険者に見つからなかったのも当然である。
「正確な数は分からないけどかなりの規模だわ。それとこれ以上近付くとバレそうね。」
これ以上嗅覚と聴覚だけでは情報を得られない様だ。
だが集落の周りにも見張りや見回りのゴブリンが配置されており、近付きたくても近付けない状況となった。
「それでどうするんだ?」
ジルはエルーとゾットの判断を仰ぐ為に尋ねる。
二人の方が経験も長いので、取り敢えず意見を聞いてみる事にした。
「エルーさんの意見を考えれば、街に戻り討伐隊を編成してから殲滅戦と言う流れが普通ですね。」
小さな村であれば現状で戦い出しても問題無いと判断出来るが、ここまで大きくなってしまった場合は別だ。
安全面を考慮するとそれなりの人数を投入しなければいけなくなった。
「私もゾットの意見に賛成ね。間違い無く統率個体がいる規模だわ。」
エルーも同じく街に戻る案の様だ。
数が多い上に統率個体がいるとなれば、戦力が一気に跳ね上がってしまう。
「少し戦ってみて判断するのは駄目なのか?」
ジルはこのままゴブリンの村を攻めたいと考えていた。
二人が警戒しているのも分かるが、それは本来のジルの実力を知らないからだ。
現状でも高く評価してくれてはいる様だが、それでもジルの本来の力を知っている訳では無い。
はっきり言って統率個体がいたとしても、だからどうしたと言う話しだ。
ゴブリンの軍勢程度であれば、本気を出すまでも無く殲滅する事は容易である。
その為のスキルや魔法は明かしていないだけで沢山あるのだ。
「新人冒険者によくある事だけど、勇気と無謀は違うわ。ジル君は強いかもしれないけど引きどころをしっかり見極めないと、予想外の事で命を落とすわよ。」
エルーは真剣な表情でジルに向けて言う。
Bランク冒険者として長く活動して来ているのだ。
そう言う状況を沢山見てきているのだろう。
「そもそもジルさんにとっては、この現状は大した事が無い問題なのかもしれませんね。しかし私やエルーさんは命の危険が少しでもある場合、慎重になってしまうのですよ。」
ゾットはエルーの言葉に付け加える様に言う。
確かにそう言われてしまうと無理強いは出来無い。
戦っても自分の身は絶対に安全だと言えるが、同時に二人の命も危険に晒してしまう事にはなる。
本来の力を使えば容易に守る事は出来るが、それでは能力隠蔽のスキルで情報操作した意味が無くなってしまう。
ゾットはギルドの者なので、ジルの情報を知っていてもおかしくは無い。
そうすると軽々しく本来の力は見せられない。
「分かった。既に我は依頼も達成しているからな。二人の指示に従うとしよう。」
ここで引き返したとしても初依頼分のゴブリンは既に倒している。
これで今後は一人で考え行動出来る様になるので、今回のゴブリンの村に無理に拘る必要も無い。
「すみませんね。それでは気が付かれない様に退散しましょう。」
「そうね、こっちに…。」
ゾットの言葉に頷いて引き返そうとした時、エルーが突然動きを止めた。
「エルーさん?どうかされましたか?」
「しっ。少し静かにして。」
突然のエルーの行動が気になりゾットが尋ねるが、話さない様に注意される。
そしてエルーはかなり意識を集中して耳と鼻をぴくぴくと動かしている。
何か気になる臭いか音を感じたのだろう。
顔も今までで一番真剣であり、ほんの僅かな音と臭いも逃さないと言う感じが伝わってくる。
「ゴブリンが多過ぎて危うく気付かないところだったわ。」
聴覚と嗅覚が何かを捉えたのか、エルーの表情は非常にまずいと言った様子だ。
「微かに女性のすすり泣く声が聞こえたわ。臭いもゴブリンの悪臭で感じ取りづらいけど、ほんの少しだけ人族の臭いがする。」
エルーが感じ取ったのは人の声と臭いだった。
ゴブリンの悪臭は中々に酷く他の臭いを感じ取る事が難しいのだが、声は小さいながらも拾う事が出来た。
そして意識を集中する事で臭いも感じ取れたのだ。
「それは村の方ですか?」
「ええ、どちらも村の方角からね。」
ゴブリンの村に人族がいるとなれば、ほぼ間違い無く連れ去られた者達である。
そして生きているならばゴブリンの習性から考えても女性であろう。
「そうですか。本来ならば先程の話しで決まりなのですが、振り出しですね。」
こう言った魔物に人族が捕まっているケース等に遭遇した場合、冒険者の取る行動は大きく三つに分けられる。
実力が乏しい低ランク冒険者だった場合、撤退一択である。
人質が危険な状態のままとなってしまうが、冒険者が返り討ちに遭い、二次災害を生む方が更に厄介となるからである。
そして実力のある冒険者の場合、撤退か救出か各々のその場での判断となる。
人質を心配する気持ちも分かるが、優先されるのはやはり自分の命である。
仮にその場で人質を見捨てて引き返したとしても非難される事は無い。
安全を考慮して応援を呼ぶ事も冒険者にとっては大切な事なのだ。
人質の存在を確認したので、それらを考慮して再びどうするか話し合う必要が出てきた。
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