元魔王様と人族の街 6

「はい、ランクが定まっていない状態ですので。今日はもう遅いので、後日ギルドにお越しの際にランク選定試験を受けて下さい。」


 冒険者ギルドではランク毎に受けられる依頼が変わってくる。

適切なランクに振り分けられるまでは、どんなに簡単な依頼でも受ける事が出来無い決まりだ。


「そのランク選定試験と言うのは必ず受けなければいけないのか?我は身分証目当てなのだが。」


「冒険者として活動していく上ではランクの振り分けの為に受けなければいけません。ちなみに仮冒険者カードでは身分証の役目は果たせませんので、それが目的でも受けてもらわなければいけませんね。」


 依頼については受けるかまだ決めていないのだが、仮冒険者カードでは身分証として不充分と言われれば試験は受けるしかない。


「成る程、では明日また来るとしよう。」


 自由気ままな二度目の人生なので、貰える事が分かれば急ぐ必要も無い。


「お待ちしてますね。ちなみに冒険者カードの発行代金は明日でも構いませんので。」


「発行代金?」


 ジルには聞き覚えの無い言葉であった。

前世では金銭のやり取りはした事が無く、物々交換が主流だったからだ。


「もしかしてご存知ありませんでした?一応ギルドの看板にも書かれていたのですが。銀貨3枚の3000Gになるのですが、所持金で足りそうですか?」


 ミラが少し申し訳なさそうに聞いてくる。

ギルドの入り口の看板にも書いてあったりするのだが見落としていたらしい。

そして色々騒がしかったので、ミラも聞くのを忘れていた様だ。


「銀貨?3000G?所持金とはなんだ?」


 当然金銭に関する言葉は全てジルには聞き覚えが無い。

遠い田舎から旅をしてきたと言う設定で聞くと、ミラは丁寧に教えてくれた。


 ジルは元々頭も悪く無いので、直ぐに理解する事が出来た。

街で暮らすならば様々な事に金が必要となり、小銅貨1枚が1Gであり、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨となる毎に桁が一つ上がっていくらしい。


「成る程、つまりその金が無ければ冒険者になれないと言う事か。」


「そうなります。もしくは何かギルドに売って、お金に変える方法もあります。魔物や薬草をお持ちでしたらですが。」


 ギルドでは魔物の素材、薬草、鉱石、情報等様々な物を買い取っている。

依頼を受けていなくても、冒険者であれば仮であっても売却は可能だ。


「魔物か、アーマードベアではどうだ?」


 直近で倒した魔物は何かに使えるかもしれないと思い、無限倉庫に収納してある。

使う予定も無いので、魔物の買い取りが可能ならば金に変えたい。


「アーマードベア!?」


 ミラは椅子から立ち上がる程驚いている。

その大きな声を聞いて周りの冒険者の注目を集めてしまい、少し居心地悪そうに座り直した。


「す、すみません、驚いてしまって。本当にお持ちなのですか?」


 ミラは確認する様に尋ねる。

ジルは知らない事だが、アーマードベアは高ランクに位置する魔物であった。

ギルドに登録する新米冒険者には到底倒せる相手では無い。


 だが冒険者登録する者が全員弱い訳でも無い。

ある程度実力のある者や騎士崩れ等も冒険者になる事はあるので、その為にランク選定試験が存在するのだ。


「ああ。解体はしていないがな。」


「是非買い取らせて下さい!明日お越しの際に買い取らせて頂きます!」


 高ランクの魔物は金を産み出す原石である。

ギルドにとっては是非取り引きしたいところだ。


「そうか、では金の問題は解決しそうだな。そう言えばもう一つ金になりそうな物があったな。」


 アーマードベアの事で思い出したが、先程シュミットからも謝礼を受け取っていた。

中身を確認してはいないが、ギルドで換金出来るのならばと袋を取り出して見せる。


「ジルさん…、これもお金です。それもとんでもない大金ですよ。」


 袋の中身を見たミラが、先程までのやり取りはなんだったのかと溜め息を吐きながら言う。

中身は金貨や小金貨がジャラジャラと音を鳴らす程入っていた。


 先程ミラから聞いた情報通りならば、暫く快適に過ごせる金額である。

シュミットが随分と多めに渡してくれたみたいだ。


「そうだったか、良き巡り合わせだった様だな。」


 シュミットからすれば命を救われた当然のお礼なのだが、ジルも大金を貰ったので感謝しておく。


「今払っていかれます?」


「頼む。それとオススメの宿があれば教えてほしいのだが。」


 泊まる場所も金が掛かると分かったが、それなりに持っているみたいなので良い宿を紹介してもらう事にした。


「それでは明日お待ちしてます。」


 ジルはミラに礼を言って冒険者ギルドを後にする。

シュミットから貰ったパンにより、今世では食の楽しさを味わえると分かったので、宿に向かう足取りが心なしか軽かった。

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