【毎日更新】元魔王様の2度目の人生
ゆーとちん
0章
プロローグ
〝死にたい〟
生きていくうえで、この感情をふと抱いてしまった人は少なからずいるだろう。
イジメを受けた時、恋人と別れた時、重要な仕事を失敗した時、重い病気を患った時、理由は様々だと思われる。
そしてここにも一人、同じく死を望む者がいた。
世界的に見ても大国と言われている魔族が暮らす国、その中心部の都市にある一際巨大な建造物の魔王城。
死を望んでいる者は、魔王城の中の玉座の間にある豪華な椅子に座していた。
すなわち魔王本人である。
何故死を望んでいるのか、理由は魔王が産まれる直前にまで遡る必要がある。
この世界は元々人間至上主義であった。
理由は簡単である、他に暮らす種族に比べて人口も文明も優れており、争い事が起これば常に人間が勝っていた。
逆に魔族と言われている者達は、繁殖能力が低く文明も大した力は持っていなかった。
そして魔物に酷似している魔族は、狩られる側の立場でもあった。
力の無い者は生き残れない、それが世界の常識である。
このままいけば、あと十年もしないうちに、魔族は滅びる筈だった。
しかしそうはならなかった。
理由は神々が干渉した為だ。
神々が住まう神界には娯楽が少なく、下界の様子を見る事は一種の娯楽となっていた。
そして様々な種族が独自に、又は共存して人生を歩んでいく姿を見ているのが面白かった。
だが多少のいざこざには目を瞑っていたにしろ、人間だけのワンサイドゲーム、しかも他の種族を滅ぼしてしまいそうになるとすれば、黙って見過ごす事は出来なかった。
なので真っ先に滅んでしまいそうな魔族を救う戦力となる様に、神々が恩恵を与えた魔族が産まれる事になった。
それが後の魔王である。
幼少期の頃から強大な魔力を持ち、少年期の頃は戦闘職の大人を軽々と倒せる様になり、青年期の頃には人間の軍隊を一人で相手取る程にまでなった。
そして成人を超えてからは、他の人間とは文字通り格が違う勇者と戦う事もあった。
結果は当然勝利である。
人間の寿命は短いので、勇者が産まれる度に宿命の様に戦ってきた。
最初は武器や魔法を交えて戦いなんとか勝利、二回目は敵の様々な攻撃を全て上回る技量を見せつけての圧勝、三回目は敵に攻撃させる隙すら与えずに戦いが終わる程の完勝、そして四回目以降には勇者と戦う機会は訪れなかった。
これは人間達が魔王を倒す事を諦めたからでは無い。
実際、勇者はパーティーや軍を率いて何度も魔王討伐を試みてはいた。
しかし成長に限界が無いかと思われる程に魔王は時が経つにつれて、際限無く強さを増していった。
その結果魔王の魔力量は肥大していき、魔王から溢れ出す魔力に当てられるだけで、吐き気や頭痛、酷い場合は気絶や命に関わる事もあった。
魔王がそんな状態になってしまったので、人間達は近付く事も出来ず、手も足も出せなくなってしまった。
しかしこれで魔族が滅びる事無く、めでたしめでたしとはならなかった。
理由は自身の魔力量が多く、他者の魔力に対する耐性が高い魔族すらも、人間同様に魔王の魔力には耐えられなかったからだ。
魔王は魔力を抑える訓練や魔法道具の開発もしたが、日々肥大化していく魔力量を抑える事は出来なかった。
家臣や魔族の民達は、滅びを辿る予定だった魔族を救った親愛なる魔王と共に在りたいと思っていたのだが、自身の近くに居れば自らの魔力で魔族を滅ぼしてしまう事になる。
なので魔王は自分の魔力が溢れ出し、他者を傷つけない様に頑強な結界を張った。
安全を考慮した為に結界は巨大な物になってしまい、国の中心都市を丸々覆い尽くす程の規模になってしまった。
故に魔王以外に中心都市で暮らしている者は居らず、結界を張った日から魔王は孤独となった。
しかしそうなってからも人族から魔族が襲撃を受けた時の為に、最高戦力である自分がいなければと、ずっと魔王城で一人暮らしていた。
だが最早世界中見渡しても、魔王と戦いと呼べるレベルの事を行える者など、存在してはいない。
結果、それ以降魔王が戦う事は一切無かった。
そして何百年という月日を何事も無く魔王城で過ごしてきた魔王だったが、自分の中にある一つの感情が膨れ上がっている事を自覚する。
〝暇〟
そう、魔王は数百年という孤独から、暇過ぎるが故に死にたいと考えたのだった。
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