主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います
リヒト
第一章
プロローグ
人は死ぬときはあっさり死ぬ。
本当に一瞬で呆気なく……走馬燈が走る暇も、何の感傷に浸る間もなく。
「あっ……」
一瞬で。
後ろから感じた衝撃と目の前より迫りくる視界を焼く電車のライトと鉄の匂い。
「……っ」
自身の耳から遠い遠い彼方より聞こえてくる色んな人の悲鳴を最後に僕の意識は闇へと堕ちた。
定期テストの最終日に受験生。
テストが終わってからも気を抜くことなく勉強を頑張り続けたものが受験に勝つんだと担任より釘を刺され、放課後に女の子からの告白を断った日の帰りだった。
■■■■■
意識が闇へと落ち、どこか遠い安住のぬくもりと忘却、すべてを照らす光に暖かな愛、意識の覚醒と記憶の混濁、自我の確立に自我の混同。
様々なものに揺れ動き、様々なものに感化され、自分が自分じゃなくなっていく感覚を覚えながらも自我を保ち、確立して固定した三年のとある日。
「冗談じゃないね!?」
今が頑張り時の高校受験生であったはずの僕、秋谷和人は自分の前にある鏡に映る自分の姿と顔立ちを見ながら叫ぶ。
白と黒のオッドアイにこれまた白と黒が混ざったきれいな髪。
憎たらしく、神が造形としたとしか思えないほどに端正で美しい幼い顔立ち。
とても自分とは思えないきれいな少年の顔を見ながら。
「もう死ぬのなんてまっぴらごめんだッ!」
ゲームとして発売されて数年。
いつしかアニメや映画にさえもなるほどの大ヒットを果たしたゲーム『プトスィの刻時』において圧巻なビジュアルと声の良さ。
重たい過去に悪役として魅力的でカッコいい姿と口調から中ボスという途中で脱落し、そのまま出番が途中でなくなる立場なのにも関わらず、人気ランキング堂々の一位を獲得した人気キャラ中の人気キャラ。
フォーエンス公爵家の長男にして次期当主最有力候補。
プトスィの刻時の設定本に書かれていたアレス・フォーエンスの幼少期の姿が映る鏡を前にして僕は体を震わせながら言葉を紡ぐ。
「あんな体験は一度で十分だ……ッ!」
一度、電車に跳ねられ、一瞬ではあったがそれでも明確な死を、自分にとって大切な『何か』が零れ落ちていく生命として受け入れがたい悍ましい経験をした僕は声を震わせながら決意する。
「こんな運命認めてなるものか……ッ!必ず僕が自分の運命を変えて見せる!」
死する運命にあるゲームの中ボス。
主人公の手で華やかで壮絶な最後を迎えるアレス・フォーエンスへと何の因果か転生してしまった僕は自身の闇落ちフラグを叩き折り、決して殺されることのない平穏な人生を送ると、鏡に映る今世の自分を前にそう、決意した。
もうあんな経験はしたくない───と。
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