美女と野獣Lv100 その3

「ファプァタの皆さんこんにちは〜」

「!」

「‼︎」

「……!」


事実、島でのクエストはうまくいったそうです。言語が違うので何言ってるかは分かりませんが、態度としてはファプァタ族の皆さん友好的。


「クゥ〜ン」


たくましい猟犬まで尻尾を振ってアリアさんの足元をグルグル、誰から誰までしっかりチャームが効いていたそうな。


その平和な空気が場に満ちているあいだに、ユイトさんが病気を診察しました。そして解明した情報を元にビゴさんが特効薬を錬成。これが的確で大当たり、ファプァタ族の皆さんは見る見るうちに回復したそうな。



 こうして数日もすれば熱病患者は撲滅、一行はお務め完了。感染チェックを済ませ、荷物を全て消毒してから帰りの船に乗り込んだのでした。

一族の長老から家畜の水牛や野良の毒ガエルまで、あらゆるものに惜しまれながら。






 これじゃ天才美少女モノノちゃんの言うとおり、感染経路がないじゃないか、って?

やっぱり原因は島でのクエストじゃないんじゃないか、って?

えぇ、私もそう思いましたが、大事なのはここからです。


全ての真相が判明したのは街でパンデミックが始まって三日後、トニコがこの話をしてくれる前日だったようです。






「なんでだ……! 一体どうしてなんだ……!」


ユイトさんは頭を抱えていました。今回の熱病、患者を診察して回ると、全員パルティアマーダ島と同じ抗原が確認されるからです。


「ビゴ、アリア。俺たちは菌を持ち込まないよう、細心の注意をはらったよな? 対応は完璧だったよな?」


薬を錬成しているビゴさんと、治療の手伝いをしているアリアさんが頷きます。


「僕は診察できないから断言もできないが、あの時君の『診察』では、保菌者はいなかったのだろう? 君が言うのなら完璧なはずだ」

「そして消毒は何重にも手間暇かけて行なったわ。あれで菌を持ち込もうなんて、狙ったって無理よ」

「だとしたらなんで……」


悩めるユイトさんを仲間が励まします。


「悩んだって仕方ないさ。今はできることをしよう」

「次は動物使いのエルジオさんですよ」

「そ、そうだな」


三人はとにかく、冒険者さまから優先して治療していました。悲しいけど私や一般人と彼らじゃ、優先順位が違う……。






 次の患者エルジオさんは、『動物』使いとは言うものの、実態はと会話できるスキルです。なのでその気になれば、もっと多くのものを扱うことができるチート冒険者さまです。


「さ、エルジオくん。これを飲むんだ。すぐ楽になるから」

「あ、ありがとう……」


多くのペットに囲まれせっていたエルジオさん。アリアさんに支えられて上体を起こし、薬を一口。


「あぁ……。少し楽になった気がする……」

「うん。即効性の成分である程度はすぐに回復する。でも治ったと思って調子に乗ってはいけないよ。完治するには今日一日安静にしておくことだ」


重要なことを説明するビゴさんですが、なにやらエルジオさんは聞いていない様子。虚空をキョロキョロ見回して、


「……そうか、そうだったのか」


なんか独り言を呟いています。これにはアリアさんとユイトさんも若干引き気味。


「ねぇ、なんかヤバくない?」

「ビゴ。あの薬、変な副作用とかあるのか? なんか、バッドトリップして幻覚見るような」

「あるわけないだろう! そんなもの作るか‼︎」


これでは自身の名誉に関わると思ったビゴさん。エルジオさんの肩を揺さぶります。


「おい! どうした! しっかりしろ! なにが『そうだったのか』なんだ! 答えろ! 僕の薬にこの世の全てを理解する効能はないぞ!」

「あぁ、すまんすまん」


エルジオさんは案外しっかりしたご様子で笑いました。少なくとも頭がおかしくはなっていなさそう。


「いや、見えちゃいけないものが見えてるんじゃなくて、空気中の病原菌と会話してたんだ。楽になって能力が戻ったリハビリがてら、ね」

「菌と?」

「奇特な人ね」


ちょっと普通では分からない感性に治療班はドン引き。やっぱり少しおかしいんじゃないの?

しかし、これはチャンスとばかりにユイトさんが身を乗り出します。


「じゃあ菌に聞いてみてくれ! 俺たちはこいつらを持ち込まないよう手を尽くしたんだ! 一体どういう感染経路でこの街に来たんだ⁉︎」

「あぁ、ちょうどその話をしてくれたところさ」


エルジオさんは爽やかに笑いました。



「彼ら、アリアさんのチャームに惹かれて付いてきたんだって」



「「「えっ?」」」

「だから、



君たちが持ち込んだんじゃなくて、何かに付着してきたわけでもなくて、菌が空気中を漂って追いかけてきたんだ」






「えっ?」

『だから〜』


熱のせいか、いまいち話が理解できていない私に、トニコが人差し指を立てます。


『人間だけじゃなくて、犬とかカエルまでチャームしてたでしょ? 「完全掌握ヴィーナスチャーム」は菌にも有効だったみたい。菌も一応生きてるしね〜』


え? え? それって?


『素直にボディガードを付けときゃいいのに、モノノちゃんが変な気回してチャーム使いを編成するから〜』

「えっ? これ、私のせい?」

『モノノちゃんがどう思うかは勝手だけど、オーナーは「熱下がったら僕の部屋に出頭してね」って』

「出頭!」

『じゃ、そろそろ私帰るね〜』

「えっ? ちょっと待って!」


私の引き留めを無視して立ち上がるトニコ。そのまま振り返らずに玄関へ。


『じゃあね〜。早くよくなれ〜』

「待ってぇ! 私は悪くないってオーナーに取りなして〜っ‼︎」


こうして私はこの街で唯一、熱が下がらないことを祈り続ける患者となったのでした。






『本日の申し送り:種族を越えた大恋愛って感動しますよね(ヤケクソ)。   モノノ・アワレー』






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