チートスキル、生かすも殺すもマネジメント次第 〜転生者追放者を集めた最強ギルドで、パーティー編成担当の受付嬢が思わぬ落とし穴にハマるお話〜

辺理可付加

転生追放ギルドへようこそ

「モノノちゃん大変!」

「はい?」


カウンターで呼び鈴を叩いて音の具合を確かめていると、ガランゴンとドアベルが。

同時に魔術具調整担当(自分でやられる冒険者さまも多いので結構暇)のトニコが息を切らして駆け込んできました(暇なので買い出しに行っていた)。冬直前の冷たい空気が流れ込んできます。


「どうしたの?」

「ドゥーラニア公国に派遣した冒険者さん!」


言うや否やカウンターを両手でバン! と叩くトニコ。衝撃で金髪という言葉では収まらない、純金製の糸を束ねたような髪が揺れます。左の肩にかかるかどうかなサイドテールの振れる毛先を、思わず目で追ってしまいます。

そんな私を現実へ引きずり戻すように、トニコの口から衝撃の一言が。



「なんか国際指名手配されちゃってる!」

「なんだってぇーっ⁉︎」



〜以上、『転生追放ギルドクエスト履歴ダイアリー』より抜粋〜






 と、履歴ダイアリーの続きを読む前に。


あなたがそのスモークオークの両開きドアを開けると、軽やかなドアベルが響くことでしょう。


そしてロビーの中央で、彼女が迎えてくれるはずです。


身長はそれなりで童顔、グレナデンシロップ色のエアリーなツインテール、鳶色ベストのバーテンダーみたいな服装をした受付嬢が



「モノノちゃん大変! 人食いキノコ討伐クエストに派遣したパーティーが‼︎」

「うええぇぇ‼︎⁇」



…………こんな悲痛極まる絶叫とともに。






 はぁ〜ぁ……。またボーナスカットされちゃうのかな……。

ん? あら! ようこそ、『転生追放ギルド』へ! 見かけないお顔ですね。クエストのご依頼ですか?

そうじゃない? では新規で冒険者の登録に来られた方ですか?


スキル『異世界観測』?


あぁ、はぁ。レベル鑑定ならのSMプレイみたいに目元隠してる……、あ、違う?

へぇ、なるほど? あなたはそのスキルで、たくさんの異世界を鑑賞して回るのを趣味になさっている、と。それで今回はこちらに遊びに来られたわけだ、と。なるほどなるほど。


あ、じゃあ、いいものがありますよ? ちょっと待ってくださいね〜。確か引き出しの中に……、

あ! あったあった。


じゃじゃ〜ん! 我がギルドの『クエスト履歴ダイアリー』でーす! こちら名のとおり、今まで当ギルドにて受注されたクエストと、その顛末てんまつが記録されております。


全 て 私 が 書 き ま し た。


いや、受付嬢が私しかいないからですけど。


ま、とりあえず座って、新しいクエストが『観測』できるまで、それでも読んで待っててください。せっかく来てくださったのに、暇にさせてもアレですから。


え? さっき天の声が少し見せてくれた? 何言ってるの……?


あ、そうだ。お飲み物は私に言ってくだされば、苦豆汁コーヒーから果実水ジュース、アルコール類まで大抵のものはお出しできますよ。あとは軽食くらいなら。


え? 君は受付嬢じゃないのか、って? えぇ、そうですけど、あっちの備え付けバーの給仕も兼ねてます。

いえ、別に雑用押し付けられてるんじゃありません。職種を掛け持てば、その分お給料が弾むってだけですよ。イジメられてるんじゃありませんって。そのおかげで私、場末の冒険者よりはいい家に住んでますからね? アパートですけど。


え? そんなに儲かるなら、今の職場辞めてここで働きたい? それもいいと思いますよ?

なんたって当ギルドはこの世界で一番儲けてて金払いがいい! 福利厚生万歳!


どうしてそんなに儲かってるのかって? それは



世界中のチートスキルを持った転生者追放者ばかりを集めた、最強ギルドだから!



異世界から転生したり故郷を追放された冒険者さまって、チートスキルをお持ちの無敵な方が多いじゃないですか。

その法則に気づいたウチのオーナーが、あ、そこ、奥のテーブルで昼間っから酒飲んでる馬づらオールバック無精髭の中年です。ヤツが方々ほうぼうそういった方の噂を聞きつけてはスカウトし作り上げたのが、この『転生追放ギルド』なのです。


そして、今あなたが手にしている履歴ダイアリーは、そんな当ギルドの輝かしい記録なのです。


それと同時に、



それゆえに生じた、私の苦労の軌跡でもあるのです……。泣いてませんよ?



あ、誰かいらっしゃいましたね。あれは同僚のトニコかな?

では、私は受付業務に戻りますので、観測者さんはどうぞごゆっくり……。






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