エピソードその2 とばっちり
第20話 もう一人
もう一人
山口花梨は本日バイトの日、先日の合コンをバックレた後、酔っぱらった(戸隠すずか)をアパートまで送り届け、その後すぐ自分のアパートへと直帰していた。
まあいつもの事だ、先輩と言うやつの下心は最初から気付いていたし、なんで男って言うやつはそういう色目で女を見るのか?
花梨はいつもその視線を感じていた、空手を習い始めたのもそういう事がちょくちょくあったからだ。
身長は165とそれほど高くはないが、二の腕も腰のクビレも同年代の女子より華奢に見えてしまう。
胸だけはまあまあのボリュームだが、男は花梨を見てすぐに寄ってきては口説き始める。
そんな中ノブユキだけはビビリなようでいらぬ警戒をしなくて済むのが楽だった、バイト先で知り合った初めての男友達かもしれない。
バイトが終わると何時ものように電車に乗りアパートへと帰る。
彼女の実家は栃木県、一応大学はまあまあ頭の良いところへ入ることができた。
本来ならば県立大学へと進む所だったのだが、高校3年でやりたいことができてしまったので進路を変更したのだ。
最初、文学部かはたまた体育会系か?と迷った末に畑違いの法律を学んでみたくなった、そしてM大学法学部へと何とか合格することができた。
彼女 言葉使いを除けばかなりスペックは高かったりする。
「おつかれっす」
「はい おつかれ~」
夜10時いつものようにウェイトレスから普通の女子へと変身する。
服装はほぼパンツルック、スカートは基本履かない。
襲われそうになった時に邪魔なだけではなく恥ずかしいから、別に足に痣があるとか、すね毛が生えているとかではない。
色白なうえに体毛は薄い方、髪の色も地毛で少し茶色かったりする。
昔々の先祖に向こうの人がいたとか、いないとか聞いた事はあるが特に関心は無いので気にしてはいない。
だがもし綺麗なワンピースを着て夜の町を歩いたとしたら、彼女は完璧に馬鹿どものターゲットになるだろう。
「ただいま~」
「ナ~オ」
「タロウ、おとなしくしていたか?」
一人暮らしをするためのアパートが決まるとすぐに実家から愛猫を連れて来た、このアパートの家賃は5万円、動物可でこの値段は安いだろう。
実家からの仕送りは5万、バイトで10万稼ぐとちょうど残らない計算。
だから、できるだけおごってもらう事が前提で遊びに出かけるが、基本は割り勘で済ませることが多い、下手に借りを作ると面倒だからだ。
これまでに同級生が変な男につかまって夜の町へ消えたなんて話は山ほど聞いた。
一時期は思春期と言うことも有り、グレたことも有ったがそれは表向きだけで本気でヤンキーになった事は無い、性格は真面目&正義。
中学から習い始めた空手は黒帯2段まで進んだが、そこの道場がいつの間にかつぶれてしまった事で今は習うのも保留中だ。
習いに行くには金がかかる、月謝が5千円ぐらいだとしても学校へ通いながらバイトも習い事もなんてできはしない。
とりあえず大学を卒業して国家試験を受け弁護士か又はそれに準ずる資格を手に入れる、それが現在の予定だ。
「おーよしよし、食いもんだよな」
愛猫(タロウ)に餌と水をやると、本日の夜食は昨日半分食べたうどんとサラダ。
彼女バイトの日は昼飯以降夜食までは夕食を摂っていない、節約と言うか太るからというか夜遅いと腹にたまって息苦しくなるからだそうだ。
まあその方が節約になるし、現在は一日500円未満と言う食費を通している。
ひと月2万円未満、そうしなければ学費に家賃に光熱費にスマホ代等々、払えるはずなど無いのだ。
『プルンピプルンピ』
『はい、どちらっすか~』
『あたしよあたし』
『あたしあたし詐欺っすね~、そいじゃバイビー』
『ちょ ちょっと夏生だってば!』
『しってるよ』
『わざとかい』
『どうした?』
『聞いた?行方不明の8人』
『え?6人じゃなかったっけ』
『6人の後、男子2人も行方不明だって、いまTVのニュースに出ているよ』
ちなみに花梨の部屋にはTVは無い、タブレットタイプのパソコンとスマホだけ。
テレビを持たない学生は結構多いのではないだろうか。
ちなみに女子3人は既に遺体となって発見されているが、結果的に全員行方不明になるとか。
『マジ?』
タブレットPCのスイッチを入れながら、うどんの残りをレンジに突っ込む。
『マジだ…』
ブラウザを立ち上げると最近はトップページにニュースばかり出て来る。
まあ設定を変えれば消せるのだが、学生 しかも法学部ともなると政治や事件の話は少し耳に入れておく必要がある、法律の話で他の学生とディスカッションするためだ。
『ほんとかよ』
『どうなってんの?皆昔の同級生でしょ』
『ああ悪ダチ つーか、まあ腐れ縁みたいなもん、本当は付き合いたくはねーんだけどな』
先日合コンと称してカラオケ屋に呼び出されたのも、来なければケイちゃんを連れて行くと言われて仕方なく付き合っただけだ。
ケイちゃんとは花梨の友人であり少しいじめられっ子でもあった友人。
高校1年の頃、当時から目立っていた花梨は先輩や同級生の女子からも目を付けられていたのだが。
その頃はそれほど花梨の口も悪くなかったので、ちょっかいを出されてはいちゃもんを付けて来るぐらいで済んでいた。
要するに口だけだったはずが、そういういじめはだんだんエスカレートして行き、いつの間にか周りの友達まで巻き込まれて行った。
要するに言う事聞かないとお前の友人をターゲットにするぜ、とまで脅してきたのだ。
最初は黙って見ていたのだが、友人が廊下で突き飛ばされ、終いには弱そうな友人数名が倉庫の裏に呼び出され襲われそうになる、それを知ってついに花梨の堪忍袋の緒が切れた。
いじめていた数人、男も含めて制裁してやったのが原因で言葉使いまでヤンキー化するに至った。
いじめが発生すると、いつの間にか花梨は、現場まで出張って行きボコるの繰り返し。
その頃すでに空手は初段になっており、学校の先輩も含め高校生でかなうやつなどいなかった。
だが受験を境におとなしくしなければ内申書にも響いてくる、まあそれは他の生徒も同じなのだが。
ここ数か月はそういう事も無かったので安心していた、それなのに田舎からわざわざ東京に出てきてまでいじめを始めるとは思わなかった。
ちなみにケイちゃんこと、金沢景(かなざわけい)は埼玉の大学に進学している。
物腰の低いほっそりした女の子、身長は2センチほど花梨より高いがその雰囲気や言葉使いが一緒にいると妙に安心するので花梨も目を掛けていた。
ちなみに川上夏生も同じく同級生、花梨とはやはり高校からの友人。
『マジみたいだなこれ…』
『でしょ』
『どうなってんだ?』
『そんなこと私、知らないわよ』
『一応調べてみんよ』
『花梨も気を付けてね』
『大丈夫っしょ』
花梨はこの後すぐに夜食を平らげ、12時前に就寝した。
彼女は夜12時には寝ることにしている、これは健康の為でもあり美容の為でもある。
ある雑誌に書いてあった事を実行しているだけだが、今の所体調に悪いところはない。
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