第43話



 彼はしばらく俯いていたが、意を決したように言った。


「殺してくれ」


「あんたの今の気持ちは分かるよ。この権力に塗れた世界をどうにかしたい。そして、そのためには組織を作り、首領になるしかない。そして、あんたは、その大きな事業を成功させた。ところが、此の新世界を変えようとするあんたが邪魔になる者が現れた。力では敵わないと知った反対組織の首領は、なんらかの方法であんたをさらい軟禁状態にした。そこからは奴らのやりたい放題で、あんたの組織の連中もあんたの命令だと信じて行動する。マスターや譲は別だったようだがね。それを知りながら何も出来ずに、この部屋でただ椅子に座っているだけ。死にたくなるのは良く分かるよ」


「なら、殺してくれるのか」


「それは駄目だね、私は殺しはやらない」


「それだけ分かっているのに、どうして殺さない?」


「それは私も言いたいことだよ。あんたなら、その能力でタイム・リープでもして逃げることができるのじゃないかな?」


「此の部屋は、あらゆる能力を制御できる鉱石で作られてある」


「気の毒だが、私は殺し屋じゃないんでね」


「約束は守った筈だ。俺を殺せ」


「そんなに死にたけりゃ、私の肩にシングルアクションのコルトがぶら下がっている。こいつを置いていこう。此の時代ならレーザーガンの方があんたに合っているんだろうけどね。残念なことに、廊下に設置されていたPCのブロックを破壊しているうちにレーザーガンが喋ったのさ。ノー・バレットってね。拳銃で言えば弾切れってところだね。拳銃の使い方は、過去にタイムリープしたことのあるあんたなら知っているのじゃないかな? 大切な相棒だったんだけどね。そんなに死にたいのなら、あんたにくれてやる。後はあんたの自由だ」


「約束が違うぞ」


「悪いね、最初の依頼は成し遂げた。しかし、2回目の依頼を聞く前に言っておくべきだった。私は、自分の命のためには戦うが、殺しを目的にして争ったことはないんだ。それじゃ、さよならだ」


「・・・・・・・。」


 私はコルトを置いて金属の扉を開け、地上のプラスチックの建物へと靴音を鳴らして、そこを去った。

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