第12話



 目が覚めると施設の喫煙所さ。

悪い夢を見たね。

しかし?、と思ったんだ。

思った途端に私はじーさんの部屋へ向かったね、駆け足でさ。


 じーさんの部屋にたどり着く前に出会ったのは例のばーさんさ。

廊下で待ち伏せでもしていたかのように立っていたんだ。

私は冷静さを保ちながらばーさんに尋ねたよ。


「やあ、美和さん、こんにちは、ご機嫌は如何ですか?」


ってね、そしたらばーさん、やけに悲しい顔をして聞いてくるのさ。


「ご機嫌を聞きたいのは私の方ですよ、よく無事で帰ってこられましたね」


 ってことはだ、ばーさんには何かが分かっていたんだ。

それもそうだな、私がタイムリープ(TR)しそうなことを仄めかしていたのを思い出したよ。

これは、じーさんに聞くよりも手っ取り早いかも知れない。

しかしだ、ここは廊下、馬鹿な長話なんてできるわけがない。

私は軽く挨拶をしてじーさんの部屋に行くことにしたね。


「海道さんの部屋に行くんだね」


 おいおい、あんたら二人は知り合いだったのかい、そう思ったがね、兎に角じーさんの部屋へ行くことにしたよ。


「ああ、そうですよ。海道さんの部屋へ行ってきます」


ってね。


 じーさんの個室に着いたのはいいが、じーさん、ぐっすり眠ってるよ。

参ったね、ここの老人達ときたら、こっちに用事がある時はいつも眠っていやがるし、忙しい時に限って用事を言ってくる。

苛ついてもしょうがないさ。

私のくだらない夢でじーさんを起こすわけにはいかないだろう。

どこで別の介護士が見張っているか分からない世界だからね。

奴らときたら、まるで人の揚げ足を取るのも仕事のように働いているからね。

じゃ、ばーさんの部屋にでも行ってみようか。

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