第17話 フクロウ

 ルヴナンとレアール、そしてピヨは白鳥に湖の向こうまで送ってもらった。

 3個のたまごが、白鳥の背から降りると、よれた常緑樹の並ぶ森があった。

 白鳥のお母さんは、夕方まではこの岸辺で餌を取っていることを約束し、3個のたまごを見送ってくれるそうだった。

 岸辺には葦が茂り、その向こうには森が広がっている。

「もうすぐだよ もうすぐだよ ルヴナン」

 森の奥からピヨは視線を感じ、声のする方を向いた。

「白鳥になれる泉は、すぐそこさ ホッホー」

 ルヴナンが前にでて、驚いたように言う。

「き、君は……あの時の」

「知り合いなの? ルヴナン」

 見上げるようにルヴナンの傍に寄るピヨ。

「僕がお母さんの巣から出る時に、白鳥の泉を教えてくれたフクロウだ」

 震える声で、ルヴナンは言う。その声の奥底には覚悟が感じられた。

「本当にあるの? そんな魔法の泉が」

 レアールが皮肉っぽく、フクロウに問う。

「ルヴナン ルヴナン 白鳥になれる泉は まっすぐさ ホッホー!」

 レアールの言葉に応えず、フクロウはばたばたと飛んで去っていく。

 ついに近くに泉があることを知り、ルヴナンは殻を震わせた。

 そんなルヴナンを、ピヨは不安げに見上げる。

 何かピヨが言おうとする前に、レアールが言い出した。

「君って結構賢いと思っていたけど、あんな信じられない奴のいう事だったの?」

「僕だって、縋りたい気持ちで来ているんだ。美しくなれるなら……」

 ピヨには分からない。ルヴナンにとって、美しくなることがどれだけ重要か。

 白鳥になる泉に言ったら、本当にルヴナンの悩み解決するのか。

 ピヨは恐ろしかった。ピヨはルヴナンが白鳥に変わっても悩み続けそうで、悲しくなった。それ以上に、ルヴナンが美しくなっても、ルヴナンは美しさで悩みそうな気がしていた。ピヨは何とかしてあげたくて、岸辺で待っていた白鳥に問うた。

「白鳥は、そんなに美しい鳥なの? 美しければ、ルヴナンは助かる?」

 白鳥のお母さんは、首をもたげてピヨに言った。

「本当に美しいかは、空をはばたいて、その目で見なければ分からないものだよ」

 その厳しい声に、ピヨは少しドキッとした。


 僕たちは卵だ。

 まだ世界を恐れて、ずっと生まれることのできない卵。

 ずっと出る勇気が出なくて、殻の中で縮こまっていることを選んだ。

 小さな、小さな、雛にもなれない卵なのだ。


 その時、ピヨには分かってしまった。

「(ルヴナンは、誰かに見て美しいと言われない限り、救われない)」

 ルヴナンがもし美しい白鳥になっても、その目で見て、そこに美しいと言ってくれる誰かがいないと……ルヴナンはそのまま嘆き続ける、ということを。

 フクロウが去ったざわめく森を背に、ピヨはこの先で待ち受ける自身とルヴナンの試練を、ひしひしと感じたのだった。

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