第10話 生き残ってしまった卵

 蛇――と呟いた彼はレアールと名乗った

 レアールはトラウマを思い起こすようにブツブツと体験を語りだす

 それは、レアール自身が巣の中で体験した、恐ろしい思い出だった


 その日、レアールは母親の帰りを待ちながら、他の子達と話していた

 しかし、全員が突如押し黙ってしまう

 それもそうだった、何かが巣に入ってきたのだ

 それは黒く長い影のような存在だった


 その影は影を大きくしては、兄弟である卵を吸い込んでいった

 自分の兄弟の生命が一つ、また一つと影の中に吸い込まれて消えていく

 卵の中で次の番を待つように、その恐ろしい影の存在が近づいてくるのがわかる

 ついにいつも隣で話していた兄弟の卵が、ずるずると影の中に吸い込まれていく

 長い影はうねりながら、食べた分だけ巨大な影になっていく

 隣の兄弟が影に消える時に、叫び声を聞いた


――蛇だ!逃げて……!


 それが兄弟の最後の言葉だった

 吸い込まれていくのを感じ取りながら、卵の中で震えていた


 突如、母鳥のけたたましい声と、闘争の音がした

 帰ってきた母鳥に希望を持ちながら、震えて終わるのを願った

 突如、フワッと自分の卵が宙に浮き、大地に引き寄せられて落ちていく感覚がした。

 聞いたこともない騒音と、自身の意識が回るような感覚に襲われた


 騒音が収まると、逆に全く静かになった。しかし、恐怖は収まらなかった

 そのまま、ずっと恐怖が過ぎ去るのを待っていた

 しばらくして、朝の陽光が優しく卵を温める感覚がすると、恐怖がおさまった

 冷静になって、自分が巣から放り出されたことに気づいた

 母親が迎えに来てくれるのをしばらく待った

 きっと生きていると思いながら、願うようにその場から動かず待っていた

 しかし、母が迎えに来ることはなかった


 レアールは、自身が死んだように思えた。だが意識があった

 胸が苦しくて、兄弟の断末魔が響き、頭に混乱が生じる

 生きている、生きている、生きている……みんなは蛇と呼ばれる影に飲まれたのに!お母さんが、隣で話していた兄弟が、影へと飲まれ消えていった

 レアールは生きているのに、心が空っぽになった

 どうして自分だけ生きているんだろう

 どうして……どうして……

 ただ胸に渦巻く悲しみと過ぎていく時間だけが、生きている自分の行動だった

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