第7話 どうして死ねないのだろう

 一波乱あって、ピヨとルヴナンは草の山の上で休憩していた。

 ルヴナンは昨日の木から落ちた雛を守った事を思い起こしていた。


「優しいお母さんだったね」

「ああ、暖かい羽だった…」


 ルヴナンは達成感に包まれていた。雛が無事に母の元に帰った事を思うと心が暖かくなった。

 草の上で感じる、優しい陽光の暖かさはあの時に自分たちを包んでくれた母鳥の羽の暖かさに似ていた。

 ふと、ルヴナンは実の母親が冷たかったのではと思った。それくらい母が羽で包んでくれた感覚を思い出せない。母の愛に不安を覚えるルヴナン。だんだんと自信が落ちていくような気がした。

 不安になったルヴナンはピヨの存在を感じ取ろうとした。今はピヨの存在がルヴナンの癒やしだった。


 ピヨは草の山の塊の上に転がっていた。

 コロコロと草むらに転がる愛らしいピヨ。


「ルヴナン、草の中から声が聞こえる」

「そうなのかい?」


 ピヨは草の中にいる声を気にしていたようだ。

 ピヨの側に寄り、一緒に草の上に転がる。

 すると、ルヴナンも声を感じた。


「死にたい……死にたい……」


 か細くて弱ったような声を心に感じるルヴナン。その声がだんだん小さく力がなくなっていくのが分かって、ルヴナンは怖くなった。


「ルヴナン、誰かが死にそうだよ!」


 ピヨは鬼気迫る声を張り、急いで草の中に潜っていく。

ルヴナンも一瞬遅れて、草の中に入った。

 草の山のガサガサという音とともに、深い底で声の主とぶつかった。

コツンとぶつかった音は卵がぶつかる音だった。


「君たちは…誰?」

ぶつかった存在は、陰鬱とした深い声だった。

ルヴナンははじめて聞くその声に、寂しさと諦めでこの生命が消え入ってしまうような怖さを覚えた。

ルヴナンはなんとか繋がりを持とうと声をかける。

「僕達は君と同じ卵さ」


その声に関心がなさそうなふぅんという反応があった。死にたいと言う卵は無気力な声でつぶやく。


「放っておいて……僕は死ぬんだ」

「だ、だめ、生きようよ」


ピヨが泣きそうな声で出会ったばかりの彼に訴え掛ける。

ルヴナンは心が怖さで震えて動けなくなった。誰かの命が突如弱まって消えていく責任と恐怖に声が出なくなったのだ。


「じゃあね……」

「だめ!!行かないで!」


泣きそうなピヨの声にルヴナンはハッとした。

力強く消え入りそうな声の主の卵に大きくぶつかって、草むらから一気に押した。


「うわああああっ」


ごろごろと死にそうな声の主の大きな叫び声が聞こえた。


「なんてことするんだ」


日の下で二人に文句を言う声の主は、まだまだ死には遠そうなはっきりした声をしていた。

その声の強さに二つの卵は安心して草から出ることができた。




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