第10話『いや、国宝捧げちゃダメですって』
揺れる馬車の中、目の前に座った見目の美しい第三あほ王子殿下は大人しく馬車に乗り、私をお供に王城へ向かってドナドナ中。
ルーベンス殿下は不機嫌さを隠そうともせずに目の前で貧乏揺すりをしてます。
此方を一切見ようとせずに、ひたすら窓の外を見てますね。
「ちっ!」
おぅ、今度は舌打ちですか。 この調子だと自分がしでかした事の重大さに気が付いてないんだろうなぁ。
「それで、殿下はなぜ準男爵令嬢様に国の宝物を贈ろうとされておられたのでしょうか?」
「あぁ!?」
うおっ、威嚇されましたよ。 誰だよこれに優雅なんて形容詞付けたの。
「歴代の王妃様の宝飾品を含めて、それらは全て国の財産です」
「王家の財だ。 未来の王妃が着けるのだ問題ないだろう」
「勘違いされているようですが、ルーベンス殿下の婚約者様はクリスティーナ様です。 マリアンヌ様ではありませんよ」
「クリスティーナとの婚約は破棄した。 貴様がクリスティーナをかっさらったんだ。 知らない訳がないだろう」
えぇ、かっさらいましたよ。 でもね。
「王子殿下からの一方的な破棄宣言くらいで、家同士の契約が破棄できると本気で考えておられるのであれば大変幸せな思考回路をお持ちですこと」
「なに!?」
無駄に綺麗な眼を細めて凄んでも怖くありませんよ。
「ハッキリ申し上げます。 現在殿下は宝物の窃盗罪の現行犯で国王陛下の元へ護送中ですわ」
「へっ……窃盗?」
「はい。 自供も済んでますし、証拠もございますから」
「俺がせっ、窃盗!?」
どさくさに紛れて第一人称私から俺に変わってますよ? もしかしてそちらが素ですかね。
「はい。 とりあえず殿下は我が国の犯罪者の処罰についてどれ程ご存じですか?」
「……」
「……」
「……」
おい! なんか言えよこらぁあ!?
マジか、マジですか。 この王子様一体全体何を学んできたんだ。 自国の刑罰も一切出てこないって。
「……反逆罪は爵位剥奪の上で、一族郎党斬首なのは知っている」
やっと出てきた処罰がそれですか、はい分かりましたわ。
「はぁ」
「な、なんだよ。 ため息をつくことないだろうが」
「自国の刑罰すらご存知ない、それがどれ程恥ずかしいことか考えたことはありますか?」
「そっ、それは」
「窃盗は罪です。 品物にもよりますが、食うに困り生きるために露店から小さな焼菓子を盗んだ孤児でも鞭打ちを受けます」
黙りこんでしまったルーベンス殿下。 眼をそらしても耳を塞ごうとも、残念ながら現実は変わりません。
「それが国の宝物となれば……」
ゴクリと生唾を飲み込んでだんだんとお顔が蒼白になっていってます。
焼菓子で鞭打ちですものね〜。
「そうそう、盗んだ品物だとわかった上で受け取った者、知っていて止めなかった者も共犯として処罰されますから」
私の言葉にハッ! としてあげた視線は絶望に憔悴しきっています。
やっと自分がやったことのヤバさを理解したかな?
「ピンクダイヤモンドの他に手を出した品物はありますか?」
「ない」
「宝物は全て書類に記載され管理されています。 嘘は通りませんよ?」
「ない!」
「では陛下の処断を仰ぎましょうか。 着きましたよ、断罪の場に」
ゆっくりと馬車は王城の正門へと停まった。
「へっ、陛下! ルーベンス殿下とダスティア公爵令嬢が至急謁見を求めておりますがいかがなさいますか」
「んぁ?」
国王執務室でいつものように書類と格闘していた国王の元に近衛騎士団長が駆け込んできた。
昼餉を過ぎてあまりの眠気に逆らえず、どうやら書類を前に数分間眠っていたらしい。
「なんで二人そろって……わかった会おう。 すぐに連れてこい」
「リシャーナとルーベンス殿下とは、何か有りましたかね」
すっかり冷めてしまったお茶に口をつけながら、ロベルトはゆっくりと国王の机までやって来ると、一枚の書類を机の上から取り上げた。
寝惚けながらサインしてしまったのだろうそれは、かろうじて読めるが、無惨な有り様になってしまっている。
「ろくな案件じゃないのは確かだろうなぁ」
「どうせなら勅命をいただく前に行動を起こしていただけたなら良かったのですけどねぇ。 そうすれば娘が監督不行き届きなんて馬鹿馬鹿しい事態には間違っても起きませんし」
「いや、まだそうと決まってはいないだろう。 それにロベルトの娘を第二王子にあてがえば丸く済むんだぞ?」
言った瞬間、部屋が凍り付かんばかりの殺気に満ちる。
恐る恐る顔をあげると笑顔を崩さない宰相の顔があった。
「我が娘とは先だってドラグーン王国に嫁に行った長女のことで御座いますか? この上リシャーナまで? ふーんそうですか」
「じ、冗談だ! 例えばの話だ! 落ち着け、話せばわかる!」
「えぇ、落ち着いてますよ。 あぁ、来たようですね」
コンコンと叩かれた扉に眼を向ける。
「御二人をお連れいたしました」
二人を部屋へと通すと騎士団長は扉を閉めて再び外へと出ていった。
暫くの間人払いをしてくれるのだろう。 このような配慮が出来るからこそ近衛騎士と言う名前の曲者集団の団長も勤まるのだが。
「お忙しい中私達の為に貴重な御時間を割いていただきまして感謝に堪えません」
「挨拶はいい、一体何があった?」
自然な動作で挨拶を述べたリシャーナ嬢の斜め後ろで息子が立ち尽くしていた。
蒼白い顔をしてうつむいたまま顔を上げようとしないルーベンスの様子に眉を顰める。
「これを」
ゴソゴソと胸元から取り出した細長い紫色の箱をロベルトへと手渡した。
「これは、リシャーナ! これをどこで見つけた」
箱の中身を改めるやこれでもかと眼を見開く。
「ルーベンス殿下、御自分でどうぞ?」
「……」
リシャーナ嬢の言葉にビクッと肩を震わせたものの黙ったままのルーベンスの前へと移動した。
「ルーベンス、沈黙していてはわからない」
「……私が持ち出しました……」
「持ち出した。 これは本来厳重に管理されるべき物でそう簡単に持ち出せるような品じゃない、もし本当に持ち出せたと言うのなら……ロベルト!」
それは宝物庫の警備が疎かになっているに他ならない。
「すぐに調べさせます」
そう言って部屋から出るとすぐに室内へと戻ってきた。
きっと団長に指示をだしてきたのだろう。
「結果はすぐに届くでしょうが、お話をお聞かせ願えますでしょうか? 殿下」
黒々としたロベルトの笑顔に慄き、呻くようにして一歩下がったルーベンスの体たらくに、近年で最大のため息をついた。
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