第6話『ナリアとはなんぞや?』
う~ん、う~ん。 重い~動けない~。
昨晩、硝子に塗りたくった物体は思ったより乾きが遅く、結局一晩乾燥させることにしました。
中身天使な悪役令嬢のクリスティーナ様と乙女トークをして、一緒にベッドに入ったのは覚えてます。
腐っても貴族が通う学院。
治療院は個室オンリー、爵位によって使える部屋は限られてますけど、これでも公爵家の出身ですから豪華な部屋使い放題ですよ。
しかも陛下の計らいで治療院は駆け込み寺として占拠済み。
広い個室の大人三人が仲良く寝れるサイズのベッドにクリスティーナ様とおしゃべりをしながら転がって一緒に就寝。
突如襲ってきた金縛りと息苦しさに、安眠妨害されました。
バカ王子の生き霊かと本気で心配したのですが、目の前には極め細かな肌と見事な谷間が!?
しかもなんか重いと思ったら、しっかり足でホールドされております。
広いベッドでそれぞれ十分なスペースを確保して寝たはず、多少寝返りしたところで触れません。
しかも私、ベッドの隅に移動して寝てましたので後ろは段差です。
ピンク色のベビードールと身体の凹凸に合わせて緩やかなカーブを描く淡い金色の髪。
うっ、動けない。 動いたらいろんな意味で堕ちる!
「うっ、う~ん……あれ?」
寝惚けながらポンポンと優しく私の背中を叩いて確認すると、ぼんやりと目を開けました。
とろんとした紫色の瞳が私を見詰めてきます。
「あれ? ……おはよう……ございます?」
「おはようございますクリスティーナ様、すいません。 放して頂けます?」
切実に放してください、なんかわかんないけど心臓に悪いです!
「えっリシャーナ様、すいません寝惚けてしまっていたみたいですわ。 ナリアと勘違いしてしまったみたいです」
「ナリア、ですか?」
ナリアとはなんぞや?
「えっと、その……笑わないで頂けます?」
「笑いませんわ」
「あー、ナリアは私のぬいぐるみの名前なんです……幼い頃から一緒に寝てる……すいません。 おかしいですわね、社交界デビューを控えてますのにぬいぐるみと一緒にねてるなん、て……」
真っ赤になって俯きながら声が小さくなっていきます。
「そんなことありませんわ。 大切なぬいぐるみですのね」
「はい! 可愛いんです!」
「ちなみにモチーフをお聞きしても?」
「はい! 蛙さんですわ!」
か、蛙ですか、バカ王子といいぬいぐるみといい。 もはや蛙に呪われてでもいるんでしょうかねぇ。
「すっごく可愛いんですのよ! 緑の布で出来てるんですけれどもふもふしてて、黒いつぶらな瞳がたまらないんですの!」
「そ、そうですか」
熱心に蛙を語られても困ります!
ご令嬢って蛙とかヘビとか苦手な方が多いと認識してたんですけど。
クリスティーナ様は御自分の御好きなものを話すとき、とても饒舌になるみたい。
「どうやら寝ている間にナリアと間違えて抱き締めてしまったようですわ、苦しくございませんでしたか?」
しゅーん、として肩を落とされては怒るに怒れません。
「大丈夫ですわ、さぁ起きましょうか? 朝食を食べたら昨日の続きを終わらせてしまいましょう」
「はい!」
いそいそと着替えと朝食を済ませて窓に塗りつけた物を確認すると、もくろみ通り、パリパリに乾いておりました。
「リシャーナ様、次は何をするのですか?」
期待に高揚させながら恐る恐る撫でているクリスティーナ様。
「うふふっ、剥がしますよ? でも力一杯剥がすと破けてしまいますから慎重に御願いします」
転生もの鉄板の和紙の完成ですよ、木屑は手に入れる暇が無かったので、学院内の雑草で造った一品。
緑色です。 いやー、意外といけるもんですね。
ペリペリと楽しそうに剥がしているクリスティーナのと一緒に剥がした和紙を絨毯の上に広げました。
「面白いですね? あんなにドロドロしてましたのに」
撫でてみたり嗅いでみたり。 クリスティーナ様は以外と好奇心も旺盛ですね。
きちんと漉いたわけではないので、厚さはバラバラ。
バカ王子へのストレス発散もかねて雑草をひたすら棒で叩いたので繊維も紙地も粗いけどまぁ、これはこれで味があって良い感じ。
強度は軽く引っ張ってみたけど問題なさそうですね、一応二枚重ねておきましょう。
綺麗に折り畳み端を幅広のリボンできっちり留めれば完成です!
さぁて、準備も出来たしぃ? いざ参らん! バカ退治!
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