【次世代編追加しました】美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな

第1話『断罪騒ぎは迷惑ですわ!』

「「きゃー! ルーベンス殿下よー!」」


「ルーベンス殿下~、こっち向いて~!」


 ウザっ! おっと失礼、ついつい心の声がもれてしまいました。


 あっ、はじめまして私リシャーナ・ダスティアと申します、ここローズウェル王国のダスティア公爵家の末っ子です。


 将来この国の未来を背負って立つ王公貴族の子息令嬢が知識やマナーを学ぶ為に開校された王立学院の校庭に響き渡った耳障りな黄色い大声援に、両手で耳を塞いで手元の本からエメラルド色の瞳を上げると、視線の先に見目麗しい男どもの集団が闊歩していく姿が目に入り、思わず盛大に顔を歪めてしまいました。


 はあぁぁぁ、なんだってよりにもよって折角の貴重な休み時間にここにくるかなぁ、彼等が行く先行く先で常に黄色い大声援が付きまとうので耳がこうキーンと痛くなるんですよ。


 学院でも屈指のイケメンである彼等が一人で居るときですら声援が上がるのに、今日は団体様なのでいつもより多く声援が飛び交い実に煩いです。


 あー嫌だ、本当に毎度の事とはいえ、騒音被害を受ける周囲の迷惑を少しは考えて欲しい切実に……


 まったくもって迷惑極まりない。


 さて私の事を少しだけ紹介しようか。 ローズウェル王国の高位貴族、ダスティア公爵家の家長でこの国の宰相として政務をとっている父、ロベルト・ダスティア公爵は四人の子宝に恵まれました。


 ちなみに先にちょびっとお話しさせて頂きましたが私は末娘です。 父様と二人の兄様とお姉様にたっぷり愛情をもらって育ちました! あっ、母様はいません。 幼い頃に亡くなりましたから。


 人生十五年間、常に目立たない張り合わないを信念に地味に目立たず伸び伸びすくすくと生きてきました。


 平凡万歳! 地味最高! だって出る杭は打たれるんですよ。


 目立たない程度に手を抜いて、やるべき事をきちんとこなせば、多少は自分本意に生きることが出来るんです。


 好きなものをいっぱい食べて、ゴロゴロするし、貴族から招待されたお茶会では社交よりも美味しいデザートや料理が目当てでした。


 まぁ、そのせいもあって顔はまん丸、顔面のパーツはぷにぷにほっぺのお肉で埋もれてますので、真ん中にちょこんとある小振りな鼻も、ぽってりした唇も、決して美しいとは言い難い容姿ですね。 うん。


 お察しの通りぽちゃりしてますよ。 むっちりと言うよりはぷにぷにと言う言葉が似合うツルペタ胸のぽっちゃり体型、デブじゃないわよ?


 あくまでも太めのぽっちゃり体型! ここ大事! 言っておきますがデブって言わないように! ぽっちゃりだからね!


 ちなみに容姿に不満はありませんよ?   このまん丸容姿のお陰で面倒な婚約者をつけられることもなく、今日まで比較的平和な学院生活を送れていましたから。


 二人いる兄様や隣国ドラグーン王国へ嫁いで行った姉様は顔が整ってますから、きっと元の素材は悪くないはずです。


 この容姿でも家族は可愛いと言ってくれるので全く問題なしです。


 比較的温厚な私ですが、目前の騒音の発生原因となっている迷惑集団に、つい公爵令嬢、いや淑女にあるまじき舌打ちしてしまいました。


 折角あまり人が来ない学院の校庭の隅をわざわざ選んで、良い感じに枝分かれした木の陰に御一人様用の敷布を敷いて座り静かに本を読んでいたのに、突如姿を現したキラキラしい集団のお陰ですっかり邪魔が入ってしまったのですもの。


 学院は貴族の子息令嬢が通うため、学習設備投資に力をいれていて校舎や一部辺境領地から入学してくる学生のための学生寮やらちょっとした狩場となる森林公園まであったりするため無駄に広いんですよ。


 無駄に広いんだからなにも校庭じゃなくてもっと人が集まるような他所でやってくれれば良いのに、よりにもよってなんでここよって思いません?


 始めに少しだけ自己紹介しましたが、私の生家であるダスティア公爵家は直轄領も広大でローズウェル王国が建国される前、先の王朝グランテ王国から続く名家で父様のように国の宰相など重要ポストにつく人材を多く輩出している家柄です。


 そんな大貴族の子女として生まれたわけですが、ありがたいことに立派な兄様達と姉様に恵まれた私は、全てに置いて中の中、優秀な兄弟姉妹のお陰で末娘には過度の期待もなく自由気ままに学院生活を謳歌させてもらっており、とても快適な日々を過ごさせて頂いてます。


 優秀な家族には感謝しかない!


 もちろん学業を大義名分にして堂々と心置き無く夜会やらお茶会やらの貴族同士のお付き合いをサボリまくっておりますけど、なにか? 


 だってめんどくさいじゃない? 近寄ってくるのは明らかに公爵令嬢と言う肩書き目当ての男と父様や兄様達に胡麻を摺りたい連中が大半。


 そんなの自分の容姿が端麗なのを理解して、相手を容姿の良し悪しでコロコロ露骨に態度を変えちゃうキラキラ集団と同じくらい虫酸が走るわ。


 思ってもいない見え透いた御世辞言われたって心になんて響きません! むしろ冷めるわ。


 こっちに寄ってこないでくださいな。


 美形なのに中身が伴わない方を見るとついつい毒を吐きたくなります。 何気にひねくれた性格してますからね私。


 幼い頃からずっとこの体型比率は変わらないので、痩せてる自分とか想像できないし、今さら無理に痩せようとか思いません! だってダスティア公爵家の料理人達の絶品過ぎる料理も、学院帰りにちょと寄り道して食べる素朴な味付けの市場の屋台料理も美味しいんだもの、食べなきゃ損よ。


 さてロザルア大陸の南部に位置するローズウェル王国の十五歳から十八歳までの王公貴族が通う事を義務付けられた王立学院には、現在同じ十五歳の第三王子を筆頭に、沢山の高貴な貴族の子息令嬢の皆さんが通っておられます。


 そのなかでも目の前を歓声と共に、彼らに近付きたい御令嬢を遠巻きに引き連れて歩く無駄に顔面偏差値の高い集団が、いわゆるこの学院の超玉の輿物件です。


 ゾロゾロと後ろを付いて歩く様子はまさしく金魚の糞! あなたたちはもしかして金魚の糞ですか? 


 ……あれ、金魚ってどんな魚だっけ? ……まぁいいや。


 ちなみに先頭を颯爽と歩く方見た目だけは大変派手な美青年がこの国の第三王子殿下でお名前をルーベンス殿下とおっしゃいます。


 我が国にはルーベンス殿下のほかに王子様が二人ほどいらっしゃいますが、どなたが王位をお継ぎになるか国王陛下は明言されておりません。


 そう明言されていないんです! 大事なことなので二回言います。


 まず第一王子殿下は正妃腹ですが御体が生まれつき弱く、全盲障害を御持ちになって生まれており御公務に耐えられる状態にありませんでした。


 幼い頃に王宮を出られているのでお会いしたことはありませんが、現在は空気の綺麗な場所で静かにお暮らしとのことです。


 側妃様からお産まれになった第二王子殿下は健やかに成長されましたが、産みの母君は、侍女から王の寵愛を受けて側妃になられたお方で、母君の御実家は既に没落済み。


 母君も第二王子殿下を出産されたあと、産後の肥立ちが悪く若くしてお亡くなりになっているために、有力な後ろ楯がないので王位をお継ぎなるのは難しいようですね。


 容姿、教養共に優秀な方だと言う噂なだけに本当に残念です。


 さて、そんなわけで第一王子殿下と同じく正妃腹の第三王子ルーベンス殿下が事実上国王陛下の地位に一番近い訳ですが、国王陛下は第三王子殿下を世継ぎに指名しかねておられます。


 さぁなぜでしょうね?


 代々見目麗しい姫君を取り込んできた王家ですので本当に見た目だけはばっちりなのですよ。


 キリッと整った顔立ちも、軍部で鍛えられた肉体も、学問も三拍子揃った立派な王子になっていただけるように素晴らしい教師を複数名陛下の指示で用意したと父様は言っておりました。


 それなのに、それなのになぜにあんなに甘やかされて、現実が見えない程に中身が腐ってしまったのか、完全に詐欺ですよ、詐欺!


 五歳になった年、国王陛下から宰相を勤めさせて頂いている父様に内々に、真っ先に私と第三王子殿下の婚約の打診がダスティア公爵家にありました。


 しかも年齢が近いと言う理由から名指しで来ましたとも!


 始めて顔を会わせた際に、こちらも公爵家に相応しい装いをと気合いをいれていましたよ。


 新調した若草色のドレスに身を包み、社交界で流行中の髪型にするために朝早く叩き起こされて、毛根が全て抜けるんじゃないかと言うくらい櫛梳り、左右対称に二つのお団子に纏め上げた頭にある髪とそれに付随した髪飾りがこれまたひたすら重い。


 その重さが、これから王子殿下に会えるんだと物語っていて実感が湧きましたわ。


 王族の方に失礼があってはならないと当日まで行儀作法のレッスン、レッスン、又レッスン! よく耐えたよ子供の私。 


 王子様と対面すると言うことで、緊張していた可愛いげのあった私は、父様に手を引かれて見目麗しい王子様と言う生き物に一種の憧れも宿しておりましたとも。


 そんな中、引き合わされたルーベンス殿下はとっても美少年でした。


 まるで絵本から飛び出してきたような綺麗な王子さまでしたよ、見た目は……。


「お初に御目にかかりますルーベンス殿下。 ダスティア公爵ロベルトの次女、リシャーナ・ダスティアと申します。 以後お見知りおき下さいませ」


 行儀作法の講師に仕込まれた自分史上最高の優雅な礼で挨拶をし、笑顔で王子様の顔を見上げました。


 私の拙い挨拶に笑顔で頷くセオドア・ローズウェル国王陛下とローズウェル王国のマッドウェル伯爵家から嫁いでこられたシャイアン正妃様の横で己の不機嫌さを隠すことなくルーベンス殿下が私の頭から爪先まで一瞥すると、後ろに立つ国王陛下へと視線を向けて一言。


「父上、こんなちんくしゃが僕の婚約者なのですか?」


 ピキッっと幻聴が聞こえそうな速度でルーベンス殿下の言葉に、同席していた一同が凍り付きましたとも。


 今なんつったよこの王子、えっこれが婚約者とかマジ勘弁!


 いくら美しく、お世継ぎ筆頭の王子殿下だろうがこんな婚約者は要らん!


 いやぁ、自分の中の王子様像がガラガラと音を立てて崩壊していきましたよ。


「出来ればもう少し可愛い令嬢にしてください、こんな蛙みたいな顔の潰れた娘、引き立て役にすらならないではありませんか。 隣に並びたく無いです」


 続いて出た要望にいち早く私が凍結から脱け出せたのは、今思い出してみても正しく奇跡だったと思います。


 かっ、蛙!? ハッ、お団子頭とドレスの色か!? しかも顔は埋もれてるだけで潰れてませんけど! 


 仮にも国王陛下から直々に王子の婚約者にと望まれたから今回のお見合いが成り立っているのですが!?


 背後からどす黒いオーラを発し始めた父様の怒気を感じ取り、これは不味いと思った私は次の瞬間思いっきり目の前のルーベンス殿下に蹴りを入れました。


 もちろん狙ったのは、兄様達に習った通りみぞおちです。


『良いかい? 可愛いリシャーナ、失礼な奴や身の危険を感じたら臍の上を思いっきり蹴飛ばすんだよ? 本当は性器を狙うのが最も効果的なんだけど、まだ結婚してない男にそれをすると責任をとってお嫁にいかなければならないかも知れないからね? 絶対にしちゃ駄目だよ?』


 はい! 兄様とのお約束通りばっちりみぞおちきまりましたよ!


「ぐっ! この、僕は王子だぞ!?」


 ドスッと聞こえそうなほど見事に決まった華麗な蹴りは油断していた鳩尾にガッツリ入ったようで、瞳に涙を浮かべて呻きながらしゃがみ込んだルーベンス殿下が睨み上げてきました。


 はぁ、権力の無駄使いしないでくれませんかね。


「わざわざ教えていただかずとも存じております。 国王陛下、この度の王子殿下への不敬、私の一存でございます。 どうか家族には恩情を賜りますよう平にお願いいたします」


「おい! 王子を無視するな!」


 なるべく優雅に陛下へ謝罪のために深く頭を下げる。


 そんな私に目尻に涙をためながらルーベンス殿下がなにやら言い募っておりますけどね、ぎゃぁぎゃぁ喚くなみっともない! 


 こっちは手を出した手前、陛下にすがるしかないんじゃい! 


 それにきちんと急所じゃなくてなくてお兄様に習った通りきちんとみぞおち狙ったんだから良いでしょうが!


 私の咄嗟の行動に父様が放っていた黒々しいオーラが成りを潜めたので、多分最悪の展開には発展せずに済むと思うけど……大丈夫だよね?


 はぁ、一時はどうなることかと思ったわよ。 


 あの場で子煩悩で自分の子供に激甘な父様がキレれば確実に不敬罪か悪ければ反逆罪に問われかねないもの。


 あっ、言っときますがうちの父様、普段は甘いけど子どもが悪いことをしたときは容赦なく怒りますから。


 激甘と激怒の温度差が激しすぎて怖いんですよ、もはや二重人格を疑うレベルです。


 話はずれたけども、不敬罪にしても幼い子供同士の諍いであれば多少は誤魔化しも効くと踏んだのよ。


「クククッ、罪には問わんよ。 ルーベンスの失言は明らかにこちらが悪い、どうやら私は少しルーベンスを甘やかしすぎたようだ。 ロベルト、リシャーナ嬢すまなかった」


「いえ、陛下には娘の不敬を御許しいただき感謝に絶えません」 


「本当のことを言っただけじゃないか……」


 それでもまだブツブツと懲りずに不満を撒き散らすルーベンス殿下の頭上に国王陛下の握り締めた拳が墜ちた、あれは痛いだろうなぁ。


「痛て!」


「しかしどうやら殿下は我が娘はおきに召さなかったご様子。 この国の貴族令嬢にはお美しい姫君や花のように可憐なご令嬢も数多にいらっしゃいます。 私は娘をむざむざ不幸にしたいとは思いませんのでね、大変栄誉な御話でしたがこの話は無かったことにさせていただきたいのですが?」


 元々父様は今回の婚約に乗り気では無かったのだもの、まぁ当然ですね。


 お父様はこれ以上ダスティア公爵家がローズウェル王国内で権力を強める必要はないと考えていましたし。


 王家としては王妃殿下の実子である第三王子を後継者にしたいと考えていたようで、ダスティア公爵家の後ろ楯が欲しかったようですが、先程の一件で早速良い笑顔で婚約の話を破談に持ち込んだ父様に感謝です。 


 王妃殿下は予想外の事態に失神してしまい救急搬送され、倒れた王妃殿下に付き添うようにルーベンス殿下も退席、国王陛下は疲れた様子で苦笑してますが。


「はぁ……わかった、わかった。 忙しいなか時間をとらせてしまった、リシャーナ嬢何か困ったことが有れば何なりと相談に来るがよい」


 そう項垂れながら締め括った国王陛下は父様を引き連れて政務に戻ってしまったため、私も屋敷へ引き上げましたとも。


 ちなみに、当時王立学院から家に帰ってきていた兄様にルーベンス殿下を蹴飛ばした話をしたら偉い偉いと言って御褒美に御菓子を沢山くれました。


 さらに数ヶ月後に正式に第三王子殿下の婚約が発表されたけど、正直どうでも良かったしね。


 新たな犠牲者に御愁傷様と憐れみは感じたけど、まぁ好みは人それぞれだし。 


 成長して王立学院へ進学してからと言うもの、なるべく問題児であるルーベンス殿下に関わらないようにしていたのだけど、はぁ例に漏れず同じ学院に通えば馬鹿っプリは嫌でも耳に入ると言うもんでしょ。


 と言うわけで、なるべく関わらずに過ごす日々は平和な食後のお昼寝タイムに突如始まったイベントをもちまして強制終了とあいなりました。 


 もうちょっと場所を考えてくれれば良いのに本当に気がきかないんだから。


 さて第三王子ルーベンス・ローズウェル殿下は現在、その見目麗しい容姿を見事に歪ませて、彼の取り巻きたる一学年上の侯爵嫡子やら国教の大司教の私生児の青年、その他の有力貴族の跡取り達を従えて自分の目の前に押さえ込まれた女子生徒を睥睨されておられます。


 ええ、相変わらず悪趣味もいいところです、女性に手を挙げるなんて!


 金糸のような髪をかき揚げ、怒りを顕に眉根を寄せて厳しい目付きで見下ろしている相手がまた問題だった。


 バカ殿……じゃなくて、ルーベンス殿下の婚約者で、私が断ったことで公爵、侯爵家に年回りの良いご令嬢がおらず、婚約者に抜擢されてしまった生け贄の君ことスラープ伯爵家のクリスティーナ嬢。


 いつもの凛とした彼女しか知らない一般外野の私としては、見るに耐えないお姿に変貌を遂げてしまってます。


 美しく纏められている彼女の心根を写した真っ直ぐな金髪は無惨に解け、拘束で制服はぐちゃぐちゃ。 


 地面に押さえつけられた為に、傷ひとつない美しい膝は擦傷になってしまっているのではないでしょうか。


 嫁入り前の乙女に一体なにやらかしとんじゃあのバカ王子!


 校庭には見物客が詰め掛けており、本来ならば騒ぎを納めなければいけない筈の教師も国の最高権力者の子息達相手に、誰も動けないでいるようです。 


 ぐぬぬぅ、頼りにならないわね全く。


「お前は不特定多数の生徒を煽動し、マリアンヌ嬢を傷つけた。 悪意を持って人を貶めるその性根! 見損なったぞ!」


 おぅおぅ、どうやらこれからクリスティーナ様の断罪でも始めるつもりでしょうか、長閑な憩いの一時が一気に修羅場と成り果てました。

 

 最近ルーベンス殿下を始め沢山の有力貴族の皆さんが一人の令嬢に心を奪われているとは噂に聞いてはいたし、実際に何度かマリアンヌ嬢が複数の令息達と一緒にいる姿を拝見する機会もあったけれど……


 学生時代限定の疑似恋愛ならまだ若気の至りとして許されることもありますが、卒業後はそれぞれ婚約者と結婚されるのが普通です。


 まぁ中には本気になって駆け落ちする情熱的な方々もいらっしゃいますが、ルーベンス殿下がマリアンヌ嬢に好意を寄せるのも一過性の熱病のようなものだと、時期に己の立場を再認識しクリスティーナ様と結婚されるだろうと初めは黙認されていたのです。


 それがまさかこんな大衆の面前で断罪騒ぎをおこすまで入れあげるなんて周りも予想して居なかったのよね。


 いったい何を考えてるんだろうあのおバカ王子は、でもこの構図なんか見覚えが……


『「いいえ! 私がそんな卑劣なことに手を染めると誰よりも付き合いの長い貴方が本当に思っているのですか!?」』


 押さえつけられても誇りと矜持を持ち、紫の瞳は目の前のルーベンス殿下を捉え、懸命に悲痛な声で訴えるクリスティーナ様……うん、そうだよね。


 他の誰かがしたとしても、将来この国の王妃になるべく厳しい妃教育を受けてきたクリスティーナ様はしないだろう、と言うよりもそんな時間取れないでしょうよ。


 クリスティーナ様の妃教育の日程表を過去数ヶ月分だけ陛下の許可を経て特別に見せていただいたけれど、心底ルーベンス殿下との婚約の話を早期に潰して正解だったと再認識したもの。


 しかし何この違和感、聞こえたクリスティーナ様の声が二つにぶれてガンガンと痛みを伴い頭に響くような感覚、気持ち悪いんですけど。


 私の知っているクリスティーナ様は、品行方正でそのうえ感情表現が少し苦手、お妃教育の合間に何か友人から相談を受ければ自分の休憩時間を潰してでも真摯に話を聞いてあげていた。


 何かを頼まれれば断りきれずに厄介事を引き受けて、奮闘している姿を知っているだけに、なぜにルーベンス殿下があのような発想になったのか疑問です。


 一体婚約者の何を見てんだか。 


 しかし、なぜでしょう。 頭の中に浮かぶ静止画は、階段の下に座り込み上階を見上げるマリアンヌ嬢とそれを青ざめて見下ろすクリスティーナ様。


 動画じゃないよ、静止画。 いったい誰の記憶よ、しかも動画とか静止画ってなに? 絵画じゃないの? 私はこんな場面見たことないわよ。


 可愛いものに目がないクリスティーナ様が、生徒の誰よりも早く登校し校舎の隅で密かに猫の仔を養っているのは知っています。 


 なんでその子猫の遺骸がマリアンヌ嬢の下足入れに入っている静止画が浮かんでくるのかな……出くわしてないわよこんな光景。


 クリスティーナ様がゴミ箱にうち棄てられた血濡れの子猫を真っ白な自分のハンカチでくるみ抱き上げて、泣きながら校舎裏に走って行かれたのは見てるけど。


 ううう、頭痛だけじゃなくぐるぐると胃のなかをかき混ぜられるような吐き気まで出てきた、体調も悪いけれど自分の記憶にない情報が流れ込んできて少しずつ侵食されていくような感覚がする。


 ヤバイ気持ち悪くなってきた、なんなのこの矛盾。


 あまり直接的な面識は無いですけども、そんな私ですらクリスティーナ様が好き好んで人を貶めるような人物には到底みえないのです。


 まずもって感情が素直に顔に出るクリスティーナ様に、将来の王子妃なんて腹芸出来るのかと疑問に思う次第。


 王家に嫁ぐ予定の者として侮られないように気を張っているようですが、性根の優しさが滲み出ているのか女子生徒達からの信頼は厚いんです。


 まぁ、とにかく彼女の尊い犠牲のお陰もあり、私にとってバカ王子の婚約者と言う最悪の事態から回避できたのでとてもありがたい存在なのです。


 ありがたや、ありがたや……そしてこの気持ち悪いあべこべは一体どこから来るんだ!?


 顔面蒼白で座り込むクリスティーナ様は、明らかに常に相手の顔色を伺い化かし化かされの情報心理戦が基本の貴族の世界では明らかに不利だとおもう。


 まぁ社交界を面倒くさがって避けまくってる私も情報心理戦なんて可能な限りやりたくないので人のことは言えませんが……


 さて今回の騒動の発端はと言いますと、現在頭の中がお花畑と化しているお取り巻きの令息軍団に囲まれて事の成り行きを黙って見守っているご様子。


 マリアンヌ・カルハレス準男爵令嬢は不安げな雰囲気を醸し出して自分を支える侯爵家の嫡男にしなだれ掛かっております。


 しかしなぜでしょうね? 恐怖に震えるというよりもこの状況に歓喜を堪えている様に見えますわ。


 そしてなぜでしょうね、私にはクリスティーナ様を見下ろすマリアンヌ嬢の見えている光景が分かるのは、彼らは校庭の中央、私は隅っこ……明らかにおかしいでしょう。


 そして遠目でもわかるマリアンヌ様の悲劇のヒロインぶり、完璧に被害者令嬢に見えますねぇ、これだけの美形集団を侍らせる才能はある意味逸材でしょう。


 ふむ、ハニートラップの才能があるかもしれませんね、暗部とか女スパイなんかむいてるかも。


 本来ならばこういったトラブルは我関せず傍観と観覧を特等席で見ていたい!


 だってめんどくさいから!


 そして大変自分の置かれているこの状態が気持ち悪いから関わりたくない。


『「証拠や証人も揃っているのに、まだ罪を認めないと言うのか」』


 まただ、なんでルーベンス殿下の言うことが先にわかるの?


 盲目的にマリアンヌ嬢を守ると言うお門違いの正義感を振りかざすしか脳がないお馬鹿の相手はしたくありませんが……


 クリスティーナ様はこのままこの気持ち悪い予想通り進めば、彼女に待ち受けるのは修道女としての幽閉エンドロール。 


 そしてマリアンヌ嬢逆ハーレムエンド。


 待って、そもそもエンドって何のこと?


 浮かんでは消える走馬灯に頭痛と嘔吐感、冷や汗で額に貼り付く金茶色の地毛を払いのけた。 


 しっかりするんだ私、ここで倒れるわけにはいかないのよ。


「ルーベンス殿下、お待ちください」


 自分の進行に突如割り込み声を掛けた私に、外野と主役達が一斉に視線を向けて来た。


 顔ががひきつるけどそんなの無視、私は与えられた使命を全うするのみ。


「お前は……?」


 ルーベンス殿下が私に声を掛けた事でザッっと外野が二つに分かれ目の前に道が出来た。


 あぁめんどくさい、学院へ入ってから定期的に宰相である父様へのルーベンス殿下の素行調査と陛下から勅命がなければ誰が動くかボケ!? 


 おっと私としたことが思わず素が出てしまいましたわオホホホホッ。 


「お久し振りで御座います。 ダスティア公爵の娘リシャーナ・ダスティアでございます」


 スカートの裾を僅かばかりつまみ上げて礼をする。


 あくまでも立場上いくら相手がダメ王子でもこちらは臣下なのだもの。 


 さすがに御挨拶が不出来ではダスティア公爵家の恥となりますから。


「あぁ、元婚約者候補のじゃじゃ馬姫か……一体なんのつもりだ」


 じゃじゃ馬姫……はぁ、どうやら中身は子供の頃から全く進展がないご様子。 


 陛下、どうやらまだ再教育が甘かったみたいですよ。


「いえいえ、皆様の学院での貴重な癒しを満喫しておりましたら何やら殿下主導の見世物が始まってしまわれましたので状況をお聞きしたくお声を掛けさせていただきました」


 訳:折角の休み時間に邪魔してなにはじめとんじゃボケが!?


「見ての通りだが? 部外者は黙って見ていろ」


 吐き捨てるように言われましてもねぇ、こちらにはこちらの事情があるわけでしてこの状況を放置するわけにはいかないのですよ。


「クリスティーナ様、大丈夫ですか? お立ちになれますか?」


「えっ……はっ、はい。 大丈夫です……」


 仏頂面を無視して混乱しているクリスティーナ様の側に膝を付き、取り合えず立たせました。


 スカートに着いた土汚れを軽く払い除けて怪我がないか確認する。


 ちっ! やっぱり怪我してんじゃないの! 


 綺麗な脚の膝が見事に擦り傷となり少しですが出血中で、痛々しく余計に王子への怒りが募ります。


「じゃじゃ馬、一体誰の許しを得てその女を立たせた」


 おーおー、怒ってる怒ってる。


 だがしかし、お父様のお怒りやお兄様達の怒りながら猫なで声で名前を呼ばれるあの身の毛のすくむような恐怖感に比べたらこれくらいどうと言うことはないのですよ。 


「陛下の御指示ですけどなにか?」


「はっ?」


「この書状が目に入らんか!」


 一度やってみたかったのよね! 某時代劇の台詞モ・ド・キ。 

 

 見えやすいように目の高さに書類を持ち上げ、広げるとルーベンス殿下に突きつけた。


「そんなもの目に入るか馬鹿が!」


「うわー、この学院でいったい何を学んでおられたのでしょう。 こんな大きな書類が実際に目に入るかなんて言われなくてもわかるでしょう、意味が違うことすら察することが出来ないなんて嘆かわしい」


 よよよっと倒れ込む真似をしてみせると、ルーベンス殿下のお綺麗な顔が一気に羞恥に染まっておりますよ。


「うるさい! 貸せ!」


「はいはいどうぞ。 ご覧くださいませ」


 私からひったくるように書類を取り上げるとお仲間令息と一緒に読み始めた。


「なになに、リシャーナ・ダスティア嬢を第三王子ルーベンスの監視、指導役に任命する!?」


「学院から卒業するまで国王の名のもとに王子への指導を行い不敬罪には問わない!?」


「「「「なんだそれは!?」」」」


 おっ、綺麗にハモった。


 なんならこっちもどうぞ。


 懐から事前に預かっていた書類を数枚追加してお渡しする。


「マリアンヌ様の取り巻き方もハイどうぞ、どうぞ」


 にっこり笑顔で手渡した封筒には、取り巻きの令息のお名前が書いてあるから、それぞれ本人に渡していく。


 ちなみに差出人はそれぞれの御実家です。 


 次々に封筒を閉じていた封蝋を破り、手紙を読み進めた取り巻き君が一人、また一人とうめきだした。


「うっ、嘘だ!」


「何かの間違いだ、こんな」


「本物ですよ」


 あっ、ちなみにその御手紙は陛下も承認されてますから安心してください。


 ほらほら、書類の下方に一応連名で各当主様方と陛下にサインも入れてもらったんですよ。


「皆さん余裕ですね?」


 顔面蒼白な者、取り乱している者、茫然自失ですわね皆様、身から出た錆び、自業自得ですけれどこんなところでのんびりしていられるほど余裕はないとおもわれます。


「早くお家に帰られた方がよろしいのでは?」


 さぁさっさとお帰りくださいな屋敷に入れて貰えるかはわからないけどね。


 だって皆様内容はほぼ同じですもの、この各当主からご子息様への書状の内容は事前に確認させていただいております。


“婚約を破棄するならば廃嫡します”


 本人は恋愛はさておき婚約は家同士の取り決めだもの、そりゃ勝手に撤回出来ませんわ。


 マリアンヌ嬢に男が七人、ローズウェル王国は王族男性が複数の女性を娶ることは認められていても、女性の重婚は認められないので選ばれるのは一人だけ。


 跡取りを儲けた後に妻ではなく愛人や妾を持たれるかたもいますけど、そんなのずっと後になってからのはなしです。


 言い方は悪いかも知れませんが、これだけ多くの殿方を侍らせているマリアンヌ嬢が孕んだとして誰の子種かもわからったものではありません。


 血脈を重んじる貴族家の後継者として、そんな相手に恋なんてしたら身の破滅どころか御家の血脈を断絶ですもの。


 それでも彼らはマリアンヌ嬢のために全てを捨てるのでしょうか?


 うふふっ、なんて答えるのかしら聞いてみましょう! 


「さぁ、愛を取りますか?」




……あとがき……

読者の皆様、初めまして本作をお取りいただきありがとうございます。

マンガからいらっしゃった読者の皆様、原作を調べてくださり感謝いたします。

また既にお読みいただいている読者の皆様、いつもご愛読いただきありがとうございます。


2023年の年末にワクチンの副作用は、初回接種から三年目からが本番だと言う事実を制作会社の元副社長が公表していると知り、ひたすら生き延びる為に調べ物をしておりました。


気になる方はぜひ調べてみてください。


また身近にまだ受けられている方がいるならば止めてあげてください。


回数を重ねるほどに重体化すると各分野から発表がありますが、いまだに接種を推奨しているところが沢山あります。


受けて貰えなくなると、接種した本人では無く、接種して貰えなければ人〇削減を遂行できなくて困るエライ人がいるからです。


ですからお金を積んでテレビでは放送されないように内緒にしています。


海外ではもう常識とされている内容ですが、みなさん知っていましたか?


お医者さんが言っていたから、政治家が大丈夫だと言っていたからと、信じて受けてしまった方は私や私の家族だけではないでしょう。


読者様や周りの人達にも多いのではないでしょうか。


最近、救急車で運ばれる方が多い、今現在体調を崩している、身体に違和感がある、亡くなる方が増えたと感じる方はいませんか?


私の話が嘘だと思う方はそのままで構いません。


このあとがきも、書いている物語りも全て私の自己満足に過ぎないだけですから。


少しでも沢山の方に楽しんでいただきたいのと同じで、親愛なる活字中毒(作者と同じ)の皆様に少しでも、沢山の方に生き延びて欲しいただそれだけです。


とりあえず、ダメ元で作者がやっている健康長生きチャレンジを載せます。日本での医学的根拠はありません。


海外の目醒めたお医者様が、自分が生きる為に見つけて伝えてくれている物も含まれます。


また井上正康先生の著書『きょうから始めるコロナワクチン解毒17の方法』もオススメします。


あなたの人生です。判断は自己責任でお願いいたします。


赤信号(命の危機)を皆んなで仲良く渡った結果が、この悲しい現実です。


最後に、読者の皆様に少しでも長くご愛読いただける様に自分で出来る対策のお裾分けです。


緑茶、納豆、パイナップル、レモンなどの柑橘類、梅干し、ウコン、ニコチンガム、日本酒、竹炭、松葉茶パウダー、CMCスタビライザー

無添加食品類


少しだけ抜け毛が減りました。


今後も引き続きよろしくお願いします。


         紅葉ももな


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