第49話 新たなる来訪者
「ふーむ、やっぱり違う鉱石だな。色味は似てるんだがなぁ」
ハンマーと釘で鉱石を採取しているケンが居た。
『教祖』から渡された端末を分解し、どのような鉱石を使っているか解析した後に素材の回収にきたのだ。
しかし、それらの素材はダンジョンの深層では採取できない。
普通の人間が深層に潜ろうものなら死ぬのはほぼ確実、それも端末という大量生産が前提のものを大量の死人を出してまで取れるはずもない。
故に浅い層でしか採掘できない質の悪い鉱石で作られており、深層のような上品質な鉱石では逆に作れないのだ。
このことを『教祖』は知っているがケンは知らない。
「知らない物を探すのは、いつだってワクワクするな」
されど男は笑う。一つ知ればいくつもの事柄が既知になる彼は未知を求めて動く。
彼が天才だからか、それとも強者だからか、他の理由があるのかは当人とその友人のみが知る。
「ん?この音は…………」
ケンの聴力は一般人よりもはるかに優れている。優れているのは他にもあるが、今は異音を感じ取ったと言ったくらいでいい。
深層の入口からでなく、侵入経路が直下掘りでもしなければ侵入することが出来ない場所、つまり中央付近の位置に人の声が聞こえたのだ。
このダンジョンは内層をいくら破壊しようとも自然に再生するためケンでも侵入は非常に面倒となる。
つまり、かつて坂神あかねが引っかかったような転移トラップが作動して不本意な侵入が発生したという事。
「さて、俺が到着するまで持つか?それともあいつらに助けられるか?はたまた喰われるか」
彼は駆けだした。僅か一瞬で超加速し残像を残して消え去ったのかと錯覚するほどに。
この光景を目にした者はいない。
何故ならしっかりと処理されたモンスターしか目撃していないのだから。
――――――――――――――
「う、ううん…………こ、ここは?」
「がう」
「うわあっ!美貌の暴力!?」
目が覚めたら美女が顔を覗いていた件、とサブタイトルになりそうな状況で重い身体を起こそうとした。
彼女の名は
インフルエンサーであり、探索者でもあった。
とはいえギャルっぽい雰囲気や格好を重視しているため腕っぷしの方は大して強くなく、浅い層を渡り歩いているくらいでメインの活動は地上である。
今回は可愛い小物を作るためにダンジョンで探索しており、運悪く未発見の転移トラップを踏んでしまい深層へ飛ばされてしまったという訳だ。
「がおー」
「おや、起きたのですね。そこ、退きなさい」
何故か口を開けていた美女を押しのけて顔まで白い布で隠された謎の人物が声をかける。
数秒にも満たない声を聞いただけで引き込まれそうな、カリスマ性のある人物だとすぐに理解できた。
そんな人物がダンジョンにいるのか?と思ったが居たではないか、先日ダンジョンへ消えて行ってから戻ってない人物が一人。
「こ、ここはどこですか?」
分かっていても聞くことはしない。余計なことを知ってしまうと身の安全が保障されないからだ。
「ここですか?一種のセーフゾーンですよ。貴女は重傷を負っていたので退避しました」
「じゅう、しょう…………?」
「今は鎮痛が効いてるので何も感じていないでしょうが」
言っている意味がすぐに理解できなかった。
確かに身体はだるくて動けない。四肢も動かしづらいと感じている。
少しずつ自分の身体を把握して言っている気がする。
指先は少し動く、しかし左だけ。
足も少し動かせる。ただし右だけ。
右手の感覚が無い。左足の感覚がない。
柔らかいベッドで寝かされて、布団もかぶっているから全貌は見えない。
しかし目に見えて分かる、あるはずの場所がへこんでいる。
ない、無い、無い!
「わ、私の腕は、足は、どこに」
「残念ながら、既になかったね。彼が到着した時点では右手と左足はモンスターに食いちぎられていたそうです」
無慈悲な宣告、今まで決して別れることのなかった筈のものがなくなっているというショック、混乱。
そして絶望が彼女を襲い掛かる。
「今は耐えられないようですね。もう少し眠りなさい、悪夢は見るかもしれませんが、今よりも落ち着くでしょう」
『教祖』の手が顔に当てられ、混乱していた頭に眠気が襲い掛かる。
どうしようもなく、抵抗することもできずメイは再び眠りにつく。
次に目が覚めた時は少し落ち着くだろう。
「がうー」
「こらこら、叩くんじゃない。骨が折れる」
「中途半端にしておくのがいけないと言いたいんだろう」
「がう!」
「戻ったのか、いや、なんで理解してるの」
『教祖』は顔にかけていた白い布を外し、工房から戻ってきたケンを見た。
「しかし、再生はしなかったのか」
「おっと、俺の能力は全能じゃないんだぞ?」
「嘘つけ。手足の一本や二本を生やすくらいできるだろう」
「がう?」
「ま、出来るけどね」
白装束を纏ったまま『教祖』はソファーに座る。
彼の『魔法』はどこまで可能なのかはケンも知らない。
だが、どこまでも可能性があるという事は理解している。
底が無い人間の欲望のように、無限に余る人の感情のように、あらゆるものを詰めたブラックホールのような底の無さがある事は理解している。
「そういう君だって、義手と義足作ったわけだろ?何のためにこの子が目を覚ますまで工房に籠ってたのさ」
そして『教祖』もケンが所有している
今は学習能力が無く機械を動かすための補助しかできない程度のAIを常備しているが、真面目にAIを開発すれば人類にとって代わる新たな存在を創り出すことだって可能。
ナノマシンを大量に使用した強固な鎧を創り出すことが出来る男が義体を作れないはずもなく。
機械人間を大量に生産し、文字通り『創造の神』になる事だって可能なのだ。
「とはいえだ、切断した部分から神経を接続して繋げるとなると苦痛は当然伴う。それに採寸もしないといけないし、そもそもバッテリーの充電方法や義手の重量に上半身が耐えられるかも疑問だ」
「軽いの作ってやればいいでしょ。その素材も深層なら簡単に取れるんだし」
「勝手なことを言うな。俺が魔力に触れられるようになったのは割と最近なんだ、それに今の人類は魔力を含んでいるから電気だけでまともに稼働するか分からない」
「ふーん、そういう問題もあったか。実験台にするか?」
「そこの無関係そうな顔をしてるやつを使うか」
「がう!?」
特に興味もないし、喰らおうにも邪魔が入っていると分かっていたため適当にお菓子を食べていたキメラに飛び火した。
キメラも身体改造には興味あるが、自身が最適化した肉体を作り出せるし、くっつけるよりも食べて吸収した方が早いので向いてない。
「ま、頑張ろっか」
「生物学はそこまで納めてないんだがな」
「地上のトップ層よりも上の知識を持ってるくせに何を言うか」
こうして煌木メイが再び目を覚ますまでケンは義手義足の設計を練り、『教祖』がキメラが『つまみ食い』しないか見張りつつ彼女の看病を施した。
さて、彼女も配信者なのでダンジョンを潜った際に配信していたのだが、その配信は既に切れている。
坂神あかねを助けた際につけっぱなしだった二の舞にしないようケンが切ったのだ。
しかし、その配信の最後にはしっかりと映っていた。
腕と足を食いちぎられ泣き叫ぶメイ、そして手足を食いちぎったモンスターを瞬殺し、端末を踏み潰したケンの姿が。
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