第23話 田舎上がりは悪さを知らず
都会と田舎を繋ぐ道路は、都会の人間が考えているよりも少ない。
だからこそ田舎上がりの少女は映像でしか見たことのない都会のビル群をきょろきょろと見上げていた。
「はえー、こんなに高い建物見たことないや」
ダンジョンが現れてから文明は一度崩壊しかけたものの、200年という時間をかけて復興することは出来た。
だが、人と金と権力が集まる都市はそうだとしても田舎はそうもいかない。
何故なら深刻な人手不足に陥ったからだ。
孤立したコミュニティによるそれぞれの小さな町が一つの国のような形となり、独自の文化が開かれようとしていた。
流石に政府もそれを危惧して早急に手を打ち、地域との繋がりを今まで以上に強化した。
探索者というダンジョン専門家と言える人間を育成するためにあらゆるところから人材を集めようとした。だが、ここで一つ問題点が浮上した。
田舎でもダンジョンが出現するという問題にはやや後手へと回っていたのだ。
「お金は貯めてきたけどすぐ無くなっちゃいそう…………早く働き口見つけないと!」
少女が言う働き口とはダンジョンへ入ってモンスターの素材や鉱石、植物を採取して換金すること。
貧乏故に幼いころから腹を空かせていた少女はこっそりダンジョンへ忍び込んでは植物を盗り飢えをしのいでいた。
一定の年齢になれば探索者として試験を受けられるようになり、それをクリアすれば探索者となれる。それを利用して少女は早期に探索者となり学校そっちのけで小規模のダンジョンへ潜り続けた。
結果として、学校は退学となったが探索者として地域最強と言われるくらいの活躍はした。
モンスターの素材と鉱石を換金してコツコツと金をため、食事はダンジョンで採れた植物とモンスターの肉と骨を生でかじりながら何とかした。
そして、貯金が目標額を達成してようやく都市の方へと上京することが出来たのだ。
「こ、ここどこ?」
そして30分もしないうちに迷子になった。
端末を使っていたとしても雑多とした街は平日であっても人混みが多く、そして都市のダンジョンの場所すら分からない。
電車で何とか近くらしきところまで来たと思いきや、実は名前が似ているというややこしい駅に間違って降りてしまい右も左も分からない状況になってしまったのだ。
「ひえぇ、これ今日の宿もないかもしれないよ」
流石にこの現状はいけないと焦りながらもダンジョン関連の店を探す。日乃本で最も規模が大きいダンジョンを構えている場所なだけあってすぐに見つけることは出来た。
「ごめんくださーい…………」
一声かけて少女は店の中に入った。が、今時そんな掛け声をして店に入る人間は都会にはいない。
いきなり店に入るなり古臭い言葉を発した少女に店内にいた客と店員の視線が刺さる。少女もまさかここまで注目されるとは思わず委縮してしまった。
顔を赤めながらこっそりと店内を物色してみる。
壁には剣や盾、モーニングスターなど明らかに殺傷能力の高い武器が置いてある。
「武器屋さんかぁ。うえ、高い」
値段もびっくり軽く6桁のものばかり。貯蓄はしているため買えない額ではないが、手持ちの武器で問題ないため買うつもりもない。
とはいえ、入ったからには何か買わないといけない雰囲気が店の中から醸し出されており記念に何か買おうと必死になる。
そこで目をつけたのが幸運のお守り。浅い層に現れるモンスターの中でもレアな兎型モンスターの歯を加工した小さなハートが連なるブレスレットである。
純白な白いハートを金属の腕輪に入れ込んだものが流行っているのかなと思い値段を見ると1万円と他の商品に比べたら安いが普通に買うと微妙に高いものとなっている。
「お買い求めですか?」
「ひゃあっ!?」
いつの間にか近寄ってきていた店員に声をかけられて情けない声が出た。
ビクビクとしながら振り向くと、そこには人の良さそうな好青年が立っていた。
「お目が高いですね。これは最近発売された物で、身に付けてると幸運がやってくると言われてるんです。実際にも…………」
ペラペラと商売トークを放っているが、緊張して全部聞けるわけじゃない上に元々買いたくもないからどうしようか押され気味になる。
「あ、あの!」
「お買い上げですか?」
「美味しい物を食べたいので失礼します!」
それだけを宣言してバタバタと少女は店を出た。
お金を稼いで美味しいものを食べることが目的なのだ。それ以外はあまり気にせず、いや寝床の確保は必要だ。
「探索者向けのとこってないのかな…………」
考えても仕方がない。下手に調べても大量に物件は出るが高すぎたり安くても質が酷いということもザラである。
流石に都会にきて野宿はごめんだ。それでも腹が減り始めたらそれどころではない。
まずはダンジョンに行こう、話はそれからだ。
少女は端末から地図を映し出し、ダンジョンへの最短ルートを歩いて行く。
空いた小腹を埋めるために事前に買っていた栄養バランスが整うという名目の棒状のクッキーを齧り、とにかく進んでいく。
何かにぶつかろうと気にしない。声をかけられても気にしない。正直な事を言うとクッキーよりも肉が食べたい。
おなかがすくのは、いやだから。
気づいたらダンジョンの入口に立っていた。
「あれ?いつの間に」
入口と言ってもそこに地下へつながる洞窟があるわけではなく、管理された建物でダンジョンへの入り口を覆い、その手前にダンジョンへ入るための検問所として存在している。
いくら何でも無規制であれば様々な組織が勝手に入り、占拠して独自の『文化』を築き上げて日乃本という国の根幹を揺るがしかねないからだ。
少女も探索者の端くれ。田舎ではここまでの検問所は無かったが人が一人二人立っている程度には警備はあった。
またお腹がすいてきた。さっさとダンジョンに入ってお金を稼ごう。
「ようこそ、
すぐに入ろうとしたら警備員に止められた。ここでうっかり探索者としての証明パスと呼ばれる手帳を出していないことに気づく。
「ご、ごめんなさい。これです」
証明パスを警備員に見せる。警備員は証明パスをじっと眺め、確認を終えたのか笑顔で少女に手帳を渡した。
「うん、間違いなく協会に入ってる探索者だ。気を付けて探索するように、生きて帰ってくるまでが仕事だからね」
自分よりも二回りしたと思われる少女に命の危険がある場所に行って良いと許可するのはどうかと思うが、これが普通なのだ。
ぺこりと頭を下げて少女が行こうとしたその時。
「あ、そうだ!君、本当に気を付けるんだよ。ここ最近、よくない輩が増え始めててね。前の式典のほら、あれがあったから」
「あー、あのいっぱいモンスターが出たやつ」
「そうそう、上位陣が軒並み居なくなったから我先に名を上げようとしてるガラの悪い連中が増えてきたんだ」
これは善意の忠告だった。
惨劇からそれなりの時間が経っても埋め合わせが簡単に効くことは無い。
権力という椅子が空いたならそこに座りたいのが人のサガ。いかなる手段を使ってもその座へ上り詰めようとする輩が多くなっているのだ。
ただし、深層に入る人間はかなり少なくなった。興味本位の者がほとんど消え、隠密主体でも式典の惨劇がトラウマになってしまったことで潜れなくなったりと支障が出ることが多くなっていた。
「だからダンジョン内でも変な人に絡まれたら逃げること。ただし、モンスターには突っ込まないようにね」
「はーい」
それを話半分で少女は聞き流した。
そのままスタスタとダンジョンへ通じる道へ歩いていく。
「はあ、あの子も割と我が強い感じのタイプか。最近増えてきているな」
警備員は少女の後ろ姿を眺めながら彼は呟いた。
「そういえば、頬と袖についてたのはジャムか?相当そそっかしい性格をしてそうだ」
そして、この日に地上で正体不明の人間にチンピラが大怪我を負わされ逃走された事件が発生したことと警備員の見る目はそこまで良くなかったことを記しておく。
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