第13話 全ては進むよどこまでも
最近編み出された深層攻略法により深層の素材が集まり始めていた。
主に鉱石や少量ながら植物も集められ、高値で取引され研究施設で研究された。
幸いなこと、と言うのはおかしいが、中層からレアドロップ扱いで非常に珍しく入手困難とされている鉱石がゴロゴロと深層へ潜った探索者達が見つけてくるので既存の物を量産することが出来るようになった。
とは言っても数年に一本作れるかどうかしかの物が職人が一月丸々かけて創ることが出来る程度の速度だ。
それでも歴史が動き出す大きな一歩となった。
無論、費用はかなりかかるが中層を常時潜り戦いに明け暮れている探索者なら手が届くと言ったところである。
積もった物の重みはそれなりに大きかった。
丈夫かつ金属製なのに軽いという利点を持った鎧の開発。魔力を全身に巡らせることで身体能力を一時的に大きく向上させ、なおかつ副作用も少ない薬。
地味な活動が実を結び彼らの活動は日の目を浴びた。
その結果、自分もできるという楽観的な勘違いをして無謀な攻略に乗り込み余計な死者が増えるという事態もあった。
実はダンジョンに入る前には入場許可証が必要になる。そこに新たな制度として事前に職員にどの階層まで潜るか申請しなければならないことが決まった。
可能な限りダンジョンを監視はしているが、生存確認が出来なくなった場合はモンスターにやられたか罠に引っかかったか、それとも悪質な人間に遭遇してしまったかの選択肢となるので行方不明扱いの死亡は多い。
深層に潜ったらなおさらである。中層までなら遺品が残っていることが多く回収は可能だが、深層に潜ること自体が命の危険に晒すことであり、ドローンなど機械を動かして行こうとしても駆動音でモンスターにじゃれつかれてしまい効果は見られない。
だが、新たな武器を手に入れた今は違う!無理が困難という段階までランクが下がり、深層であっても入り口付近なら十分に探索することが出来る!
次なるステージへ向かうための準備期間として探索者をまとめる組織の幹部がそう演説していた。
「分かってないな、現場に行ったことがないタイプの人間か?まあ、ベテランの元探索者が組織の運営を出来るかって話になるなら…………誰にも適正ってものがあるよな」
実際に現場に住み着いている男から言わせてもらえば、現状で発見されている貴重な鉱石を使った武器で深層を攻略できるかどうかと言われたら、否である。
端末で数か月後のダンジョン誕生200周年でトップクラスの探索者を集めて深層を小規模とはいえ攻略を公式に進めていくと大々的に公表したのだ。
もちろん武器の質が上がればモンスターを倒しやすくなるだろう。基礎能力をブースト出来たら今まで対応できなかった動きに追いつけるだろう。
それを超えられた時、対処は出来るのだろうか?
民衆からは好評な演説だったが、探索者からは微妙な反応だった。
:呼ばれてもあんまり行きたくないなぁ
:隠密主体の我らは隠密のみで参加したいのですが……
:例の罠踏んでからもう二度と行きたくないんだけど、式典だけは参加しようかな
:新しい武器振り回せるから楽しみ!
:あさりポセイドン
:友達の仇がとれそうだ
SNSにも動画として記録された演説を見た探索者も引用してコメントを、なんか関係ないのが混じってる、残していた。
外国の上位陣であるトップランカー達もやや否定気味な反応が多い。
彼らは命を懸ける戦いをしたい熱き心を持っているのは否定しないだろう。だが、それは同格までのモンスターに限るのだ。
命は基本的に一つしかない。無限にあれば羨ましいかもしれないが、一つしかない物を守り抜いてこその探索者だ。
勇敢と無謀をはき違えず、堅実に、自分に合った探索方法で地位と財産を築き上げてきたのだ。
自分の身体能力は自身の配信を見直し反省点を探している時点で、深層のモンスターの強さは切り抜きされた死亡事故動画で学習している。
行きたがっているのは実力があるとされている新人や上位を目指そうとする野心を持った中堅である。
「自分なら何とかなる、そう思ってたら痛い目を見るんだよな」
ケンは今どこで何をしているか分からない友人を思う。
全ての始まりはダンジョンに関わる前だったが、悪くない仲だったとは思っている。
無駄に不幸で女難の相が出てる奴、普通だが真面目なストッパー役、雰囲気は暗いがはっちゃけると本性はやべー奴、そして自分。
「懐かしい、あの頃はあの頃で馬鹿をやってたなー」
気づけば自分を含めて全員行方不明になった。
ダンジョン深層に住み込まなければいけない事情を抱えたにせよ、こちらから出向くことはないのだから仕方ない。
仕事としてごく一部の『外部連絡』は取れるがそれも相手側からのアクションが無い限りこちらから取ることもない。
その過去はもう戻らない。思い出の中でずっと彼の中で巡り続けている。
「…………さて、もしものために監視装置の開発に手ェ付けないとな」
思い出に浸る事をやめて立ち上がる。
ケンが機械の製作にて一番の問題として抱えていたのは魔力の取り扱いである。
様々な事情があって地上の人間が扱える物を扱えない彼であったが、思わぬ光明を見つけたのだ。
それがこの金属製でありながらしなやかでよく伸びる新素材の鉱石で出来た手袋である。
今までは『魔力抜き』という別の鉱石に魔力というこの男では扱えないエネルギーを吸わせて不確定要素をほとんど取り除いた作業をしていた。
これは、ケンが魔力に触れても何も起こらないからである。
地上の人間だといつの間にか魔力の流れをある程度操作できるようになっているため、職人は魔力という純粋なエネルギーを身体能力の強化やダンジョン内という妨害電波そのものが常に発している場所で通信技術を確立させるなど恩恵は凄まじかった。
故に、この技術は欲しくても、理論上は確立させていても触れられなければどうしようもなかったのだ。
「さぁて、理論上は出来るはずだ。試作機から始めよう、一日でそれなりの物を作らないと間に合わなさそうだしな」
既存のダンジョン産鉱石を手袋越しにグイグイと弄り、新たな回路を作り上げていく。
もちろん魔力をどう扱えばいいのかはネットから論文を読み漁り理解している。
それでもほぼ初めての状況から物を作るということは彼にとって唯一と言っていいほどの楽しみなのだ。
今までろくに苦労したことがないからこその楽しみ、不可能を可能にすること。超常現象こそ扱えないが、それ以外は完成されている男にとって滅多にない娯楽なのだ。
今日も楽しみながら工房で機械を製作する。
いずれ来る日に備えて。
そして、いつか友に会えると信じて。
たとえ、どれだけ月日が経とうとも、既に亡骸になってようとも。
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