ダンジョン深層住みです。いつからかは忘れました
蓮太郎
第1話 深層に住む男
「よいしょっと、これでトドメ!」
『ゴ、ゴゴゴゴゴ…………』
俺が振るう剣で目の前の金属で出来た大きな人型を切り裂く。
巨体に対して剣は短いが、剣を柄の部分まで食い込ませて切り裂いた為、金属の人型。通常ゴーレムの核である部分まで切り裂いてしまったらしく眼前で崩れるように倒れ込んだ。
光が入らぬ暗い筈の洞窟なのに妙に視界が明るく、倒れた際に広がる砂埃もしっかりと見える。
「素材ゲット〜、何の金属か調べて、そうだ電子レンジの修理に使うか。余ったら適当にハンマーにして備品でも増やすか」
誰に聞かせるのでもなく、独り言を喋るように言う。もはやこれは癖みたいなものだ。
たった一人、地下深くにて住み続けている男こそ俺だ。
いつだったか忘れたが、ある日を境に突如謎の洞窟が世界に現れた。
何もなかった筈、正確に言えば人が住む為のインフラというこれ以上何も起きるはずのない土地のど真ん中が突然山のように盛り上がり、謎の洞窟が出現したといった感じだった。
何かと騒いでいたころは良かった。まだ謎の生物に襲われるとは思いもしなかったからだ。
そして、洞窟から大量のモンスターが飛び出て暴れまわった。
突如発生した惨状に大パニック、大量の死者を出しながらも鎮圧自体は成功した。
その日を境に世界中に小さな洞穴ができるようになる。
この穴は都市にできた物よりは小さいが、脅威ではある以上対処しなければならない。
その対処するのは誰か?
国の防衛力を削って派遣できる戦力は都市にできた洞穴、後にダンジョンと名付けられる穴へ送られて行き、地方の穴はその土地に住む住民が解決するしかなかった。
世界中にダンジョンが出来たその時は電話すら出来なくなるほど大混乱の時代だった。
都市のダンジョンは非常に深く、当時の軍では浅い層しか見回ることしかできなかった。
だが、そこで得られる資源は豊富だった。
虫型モンスターから剝ぎ取った翅や蜥蜴型モンスターの革は下手な防弾チョッキよりも固く、そして軽かった。
一部の人間はそれを装備に加工して防具にした。
深く潜れば潜るほど火器は効き辛くなり、いつしか戦う者の武器はダンジョンで生産されたモンスターの素材を、鉱石を使った剣を使っていた。
そして時が経ち世界は安定した。気づけば老若男女がダンジョンで採れる素材に一攫千金を夢見て命を懸ける時代になった。
だが日乃本のダンジョンには一人、深層と呼ばれる一度入れば生きて帰ることは運次第と言われる程過酷であり、ほとんど人の手が入っていない地下に、たった一人で人知れず戦い続ける男が居た。
動かぬ鉄塊と化したゴーレムを片手で引きずりながら男は深層に造った住処へと戻っていく。
なお、金属製のゴーレムは重機で引きずるか、その場で解体して小さくして運ぶのが鉄則である。間違っても片手で引きずることはできない。
「そういや外はどうなってるんだろうな。おっと、独り言が多くなってきたな。思ったよりも寂しくなっているのか?」
自分が言った言葉に疑問を感じながら男は歩く。
そう、この男はダンジョンが現れた最初期から深層にいた男。
地上でのモンスター出現が数百万匹で済んだのはこの男が居たからだ。
「全く、任された仕事が落ち着いてきたってのに最近連絡もありゃしない。ま、近々何かあるだろ」
ゴーレムを引きずり、隙があると思われたのか首無し騎士の怪物に襲われるも片手に握る剣で叩き切る。
この男が言う通り、何かは起こった。それは、時間にしてこのゴーレムを帰ってからすぐに電子レンジの部品にしてついでにハンマーを作り上げた3日後のことである。
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