第3話「異世界征服に来たと思ったら、山パンで派遣してた夜の女王」
「はい、派遣の人集合~」
老若男女がゾロゾロと移動する中に、ひと際目立つ容姿の少女がいた。
銀髪の髪に赤い瞳と華奢な身体。作業服はSサイズでもブカブカである。
彼女は、勇者を倒して世界を支配した夜の女王で無敵の吸血鬼であった。
なぜそんな最強魔族が幼女化して派遣として山パンの工場に来ているのか?
その話は4話とか5話で語るので一旦置いておく。
話は戻って、山パンの派遣バイト。
集められた労働者は、社員に順番に名前を呼ばれて次々と持ち場へ配置されていく。
「――はい、よろしく。じゃあ次。え~、ばる……みりん・ルナ・のくたな? あってる?」
「ヴァルミリオン・ルナ・ノクターナじゃ! 間違えるな、若造!」
「うん。じゃあ、担当はあれ」
「スルー!?」
「流れてくるアンパンの上にゴマが乗ってるじゃん?」
「う、うむ……」
「あれが多かったり少なかったりしたら弾いて」
「は? このゴミ粒のことか? これが多かったり少なかったりして何が困るんじゃ?」
「知らね、何が困るんだろうな~。じゃあ、よろしく。はい次~」
「えぇ……おぬしも知らんのかい……」
虚無のような返答を受けたルナは、不可解な表情のままベルトコンベアの前に立つ。
そして流れてくるアンパンを見る。
アンパンの上にはゴマが乗っている。
「ふーん。これ見てたら金がもらえるとか最強ではないか。道楽者もおるもんじゃな」
余裕を見せるルナの目の前を、アンパンは規則的に流れていく。
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どのくらいの時間が経ったのだろうか。
延々と流れていくアンパンを見続けたルナはつぶやく。
「……これ新手の拷問か?」
あまりの無為っぷりに、頭が勝手にそう解釈してしまう。
「これが8時間続く……? マジか? 悠久の時を生きてきた我でも発狂しそうなんじゃけど……」
山パンの検品作業は、不老不死の化け物でさえ恐れおののくものであった。
リナは改めて本日の労働について考えを巡らせる。
「えっと、たぶん今1時間たったから……後7時間もこの拷問を……?」
ゾっとしたルナが時計を確認すると、なぜか時計は5分しか進んでいない。
「……………………どうぇ!?」
驚いて2度見するルナ。
しかしいくら目を凝らしても経過した時間は5分間であった。
「じ、時間が遅くなっておる……!?」
時間停滞魔法は高位の魔法使い数十人が連携してようやく発動できる魔法だ。
「まあ、我が本気出せば一人でもできるがの」
誰に自慢しているのだろうか? なぜかルナは一人ドヤっている。
「それにしても術者は一体どこに……」
周囲を見渡すルナ。
周りには白い作業服とエプロンを着た者しかおらず、誰が誰やらわからない。
(くそ……あまりキョロキョロしていると術者と社員にバレる……術者はまだいいが、社員に見られたらキレられるし、何より金がもらえん!!)
「ふん……いいだろう。我の神経をすり減らす作戦、敢えて乗ってやるわい」
ルナは、誰も聞いてない捨て台詞を吐いてアンパンの監視に戻る。
再びルナの前を、アンパンが延々と流れていく。
そんな中、アンパンの一つにゴマの量が多いものが流れてきた。
「お!」
ルナは喜んでそれを手に取ろうとする。
しかし、隣のおばちゃんに止められる。
「そんなもん弾かなくていいの」
「え……」
ゴマの多いアンパンはそのままルナの前を流れていく。
「ゴマが多くても弾かないなら……我はなんのためにここにおるんじゃ……?」
「あんたね。そんなこと考えてこのバイトしてたら――」
ベルトコンベアを凝視していたおばちゃんが、首だけでルナを見る。
「死ぬよ」
一瞬びくっとするルナ。しかし強気に出る。
「は、はん! 我は吸血鬼だから死ぬとかないし!」
「正確には死にたくなる」
「お、おう……」
ルナはおばちゃんの虚ろな瞳と言葉に気圧され仕事に戻る。
そして、延々と続くアンパンの行列を見ている内に、ルナは先ほどの自分の言葉を思い返していた。
(あれ……マジで我はなんのためにここにおるんじゃっけ?)
ルナはどんどん自分の思考に深く沈んでいった。
そしてそこで、この異世界『日本』に来た時のことを思い出していく。
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