第3話 車高
ソフトクリームが恋しくなるくらいの半袖長ズボンがちょうどいいくらいの熱さの中、太陽は雲たちを押しのけて元気よく活動している。正直、まだ五月なのにこの暑さは異常である。そろそろ人類は氷系統の魔法を使えるように進化すべきなのに、世の中はそう上手くできていないものであるな~。そう、俺が暑さで頭がおかしくなっているところに追い打ちをかけてくるのが車高である。3,4回目車高での車の運転、正直自分には才能がないのではないかと思わされる。なぜなら、比較対象がいないというのもある。いや、比較対象がいないからこそである。自分と同じ初心者を目の当たりにしていないから必然的に比較対象が車を教える立場である車高の先生や運転が大好きで、累計走行距離が何万キロと行くお父さんと比べてしまうので、自分の未熟さが身に染みる。しかも、車高の先生なんかは俺がクマとにらみ合いをするかのように必死になって運転しているのに、助手席からでも俺より上手な運転ができるときた。まあ、それがなっかたらそう思うと想像すらしたくはない。しかし、確実に言えることは人が8人は死ぬであろう。そんなこんなで気温のせいでもあるが、これからみんなの前で一発ギャグをさせられるのかという低いテンションで自分の番を来るのをこじんまりと席の端の方で待っている。すると、身長は180くらいあるであろう、俺と頭1つ分くらい差のついた体格は縦だけの話ではなく、横も1.5倍くらい違う。ボディビルダーと言っても差し支えないサングラスをかけたガチムチのおっさん。強面の顔も相まって、ヤクザと言われても簡単に信じてしまう。偏見だが、確実にご実家の方におチャカさんを所持しているだろう。
「33番は君か」
「はい、本日はよろしくお願いします」
最敬礼という体の角度を90度にして、両手の指をまっすぐ腰につける綺麗な姿勢。高校の時、身に着けた自分よりも強い相手に対する礼儀作法ここで役に立つ時が来るとは、まあ、と言っても部活で目上の人にする対応と同じなんですけどね。完璧な対応をして安心しきっている俺に対して、ヤクザ先生はサッサと車に乗れとせかしてくる。なんてめんどくさい性格だ。
「では、車のエンジンの掛け方からおさらいしていこうか」
俺が運転席に乗るとそう言われた。だから、俺は車に座ると同時に、素直に従って言われた通りにエンジンを掛ける。
「馬鹿野郎、エンジンから掛け始める奴がどこにいる。まずは、座席の位置が運転しやすい場所にあるかの確認だろうが、このやろう。」
え~~~~、そんな理不尽な………………流石に言い方が悪すぎるだろ。確かに頭を使えばわかることかもしれないけれど…………これも社会の厳しさとして耐えることしかできなのが悔しい。そう思いつつ舌を噛み、これまで習ってきたとおりの行動をとることしかできず、席の位置とバックミラーの位置を調整する。
「そうだ、車の運転はなあ、気持ちが大事なんだ。エンジンをオーバーヒートさせる勢いで運転しろ。」
「わかりました。」
言葉ではそういったものの心の中は、まったくわからねぇよ。なんなの流石に初心者がそんな勢いで運転したら人が死んじゃうよ。しかも、車をオーバーヒートさせてらダメでしょ。それから、しばらく信号を曲がるような急なものではなくて、緩やかな初級レベルのカーブの練習を繰り返した。結論から言わせてもらうと隣のヤクザが非常に邪魔。
「おらぁ、左のタイヤを意識しろぉ」
「すみません」
わかっているけど難しいの。あと、「おらぁ」って何?死にそうになっている人でも平気で殴るタイプのスタートダッシュなんですが、あと、ダメ出しばっかで普通に殴りたいけど、戦っても勝率は宝くじで10億当たるくらいに低い。つまり、罵詈雑言をただただ浴びることしかできない苦痛の時間になっていた。
いかん、大学生活はどんな困難が訪れようと楽しくしするよう心がけていたのに…………。このままでは不味い。何とかしなくては。ここで運転に意識を向けようと耳に入ってくるノイズを全力で遮断する。そして、意識は左前の前輪、ハンドルを握る手が自然とギュッと力が入る。近くにある緑のさわやかな自然の匂いも、車のエンジン音も、隣のヤクザのノイズも感じないほどの集中。視界の先には、車がすっぽり入る2つの白線、そのうちの左前タイヤに近い左側の白線のみに言われた通り視線を向ける。そして、左白線を綺麗にわたるような完璧な右カーブ。流石に自分でもここまできれいに渡れると思わなかった。すかさず、「これは褒めてくれてもいいんじゃないんですか」そういう意味のどや顔を隣のヤクザに向ける。ヤクザはこっちを向いて一言。
「馬鹿野郎、この道は右のラインに合わせて進むように何度も言ってるだろうがぁ」
そこで俺の心は爆発四散する。やはり隣のヤクザは非常に邪魔だった。残り時間40分、がんばれ俺!!
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