大学生活は面白く!

@sunaokyo

第1話アイデンティティ

 大学の授業は高校の授業と違って自由度が高く、自分で受けたい科目を履修することができる。その中には必修のもあるが、基本的には高校の時のように先生たちが勝手に教科を決めてくれることはないので、非常にめんどくさいのである。しかし、このめんどくさい壁を乗り越えてからは授業中もかなりの自由が利く、そう思っていた…………。現実は時間が90分になっただけの普通の授業であった。夢と現実のギャップを感じた時、普通の人なら授業以外を楽しもうとするが、俺は違う。授業を自分なりに工夫して面白くかつ真面目に授業を受ける。それが俺の目標であり、やってきたことの集大成である。そして、その方法はというと…………………………。

 今日はお昼前にある、二限スタート。ぱっと見て、テニスコートが余裕で入りそうな空間ではあるが、テニスをするには向いていないだろう。なぜなら、教室の4分の3を棚田スタイルで階段状に椅子と机がギュウギュウに詰められているからだ。おそらく、150人は座れるだろう。棚田椅子はそのたくさんある並びを4つに分けられて、それぞれの間にはお相撲さん二人分の通路がある。そこをりくちゃんこと俺が渡り、椅子と対象の位置にある教壇から見て左側の真ん中あたりに友達のひでさんと一緒に座る。そして、90分間の長い戦いが小さなゴングとともに始まる。

「今日のテーマはアイデンティティです。みなさんに質問したいのですが、かぼちゃプリンを好きということはアイデンティティに含まれると思いますか?」

 これは何という難しい質問だ。アイデンティティはイメージで言うと個性である。テニスが上手いとか、カラオケで上手に歌えるなど、正解がないため回答を幅広くできるな。調理のし甲斐がある。そんな思考とともに、実力が試されるお題に、癖で顔に手を当てて探偵のように思考を始める。そしてひでさんと机の上の大討論を始める。

「この問題の答えはノーだ。ひでさんはどう思う。」

「俺はイエスだと思うけど?なんでノーやと思ったん?」

「仮にかぼちゃプリンを世界中のみんなが好きだとすると、かぼちゃプリンを嫌いな人の方がアイデンティティを持っていると言えるから」

「うん、そもそもの仮定がおかしいな、そんなん逆の状況で仮定したとき俺の意見がイエスになるなぁ」

 おかしい、完璧な意見だったはずなのにという表情を忘れずに行う。授業が詰まらないなら大喜利で面白くすればいい。こんな極論に追い込まれている自分が悲しい。そして、ノリのいい友達のひでさんに感謝。

「世界のみんながかぼちゃプリンを嫌い?それはないな!」

「りくちゃんの最初の意見もそう思うでぇ」

「ふっ、なぜなら、かぼちゃプリンは美味しいから!!!!」

「話し聞ちょったぁ?あと、そんな脳みそ筋肉の野郎の意見に!は4つもいらん」

 なんと、ビックリマークは目に見えていないはずなのに正確な数まで指摘しきるとは…………。恐るべし、ひでさん。

「じゃあ、かぼちゃプリンから離れてみん」

「じゃ、ひでさんのアイデンティティを教えてよ」

「俺は………………」

「分かった、大学生で一人暮らしと言えばすることはひとつ…………パチンコやろ!」

 これは感ではなく確信であった。この前、部活の先輩も「2万負けたから金がねぇ~。」って言いよったし、ひでさんは俺の中で勝手に変態キャラになってるから間違いない。

 「うん、違うな。パチンコなんか行ったことないな~。あと、絶対俺に失礼なこと考えてたよなぁ」

「やっぱり、パチンコに行ってたのか流石は変態」

「話聞いてた?あとパチンコと変態関係ないし」

 マジか、変態を否定してこない。ということは暫定変態から、確信変態に昇格だ。ということは、こいつはオオカミ野郎だからあの教訓はもしかしたら…………。

「やはり、アニメでよく使われる、男はオオカミさんだから 気をつけなさいは本当だったんだのかもしれないな」

「話が飛びすぎてわからんけど、変態ではないぞ」

「ちっ」

「舌打ちやめい、先生こっち見てるから」

 こんなしょうもない話をしている内にこの議題は終盤を迎える。

「僕はかぼちゃプリンが好きです。高校の時に病み期があったんですけど、その時友達に連れってってもらった喫茶店で食べた、かぼちゃプリンの優しい甘さに心打たれました。」

「そりゃ、友達に飯を奢ってもらうんだ、まずいわけがない」

「りくちゃん、そういう話じゃない」

 友達と話すことを封じられるなら、先生の発言で大喜利をすればいい。

「そこから僕はかぼちゃプリンを研究しまくりました。今となってはかぼちゃプリンの分量を見ただけで何味かわかりますよ」

「そりゃ、カレー粉を使ってたらカレー味になるさ」

「りくちゃん、もう黙っちょって」

 ヤバい、ひでさんは真面目に授業を受けるから、先生の話が始まるとかまってくれなくなる。一人でボケ倒しても何も面白くない。ならば、ひでさんのツッコミ本能に訴えかけるしかない。

「それから周りの先生にかぼちゃプリン博士なんて呼ばれるようになりましたよ」

「何がかぼちゃプリン博士だよ。どうせ、カレープリンだろ」

「……………………」

「まあ、カレープリン博士なら…………」

「せっかく、無視したのに追撃する?」

 そして、もう授業の終盤。実は普通にアイデンティティに興味があるから、じらさずに早く答えが欲しい。

「まあ、そんなことをアイデンティティっていうんですかね?知らんけど……」

「ん?りくちゃん、結局アイデンティティって何なん?」

「カレーなんじゃね?」

 その後、俺のカレーいじりにひでさんがツッコミを入れることはなかった。











 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る