第15話 風鳴りに眠る
二つの山境にある谷を集落とした此処、鳴寝村では一つ厳しい掟があった。
日が落ちて寸刻の後、谷間を吹き抜ける豪風の音を合図とし就寝せよというものである。
まるで年寄りが大鼾をかいている様なソレを集落の人間達は神鼾と呼んだ。
神と共に眠りに入り、また日の出をもって神と共に起床する。
そんな意味合いを込めた風習であった。
ある日一人の子供が神鼾の時に差し迫る中で帰って来ない事があった。
事故に身動きが取れなくなってしまったのか。
何が原因かは分からずもその時は一刻と近付いて行き、そして遂には神鼾を迎えてしまった。
いつも聴き慣れている芯に響く風鳴り。しかしその風が運んだものはいつもと違っていた。
子供の耳を貫く様な甲高い泣き声がこだまする。
親は「自分達の子供の声だ」と大声で叫ぶ。
人々は驚きつつも、ならばと風の通り道に逆らって歩き、そして先の奥まった所で足に怪我を負った一人の子供が泣いているのを発見する。
その途端に音は止んだ。
集落に戻り帰ると今度は聴き慣れた神鼾が鳴り始めた。
人々はこう思った。
泣き叫ぶ赤子に眠れず、困り果てた神様がその声を山彦として我らに助けを求めたのだと。
今日も集落には風鳴りが響き渡る。
お膝下にて加護を受ける者達の眠気を誘いながら。
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