第43話 最後の家族会話

 意識を取り戻したアデリーナの視界に映るのは赤い鎧の背中。


 誰かに肩に担がれ運ばれていたアデリーナは必死に抜け出そうとするが痛みで体がまともに動かない。


「暴れないで、私です!サラです!」


 サラの声だとすぐに分かったが抵抗を辞める理由にはならない。


「放してください!ヴィットリア先生を助けなければ」


 叫び声とともに必死に藻掻くが、その腕の中からは抜け出すことができない。視界の先に映る城がどんどん離れて行く。


「これはヴィットリア先生からの最後の命令です」

「だからと言って繰り返すつもりですか!」


 無理やりに体を動かし、サラの腕から逃れたアデリーナはそのまま落下する。


 地面から必死に立ち上がろうとするもブルーに着けられた傷跡が痛み立ち上がることができない。


 アデリーナの前に立つと、サラはたっぷりと間を取ってからは静かに語り始めた。


「今から言う事をしっかり聞いてください。暁の騎士団の秘密を」


 サラは暁の騎士団の秘密を語りだした。アデリーナには想像もできない壮大な話に何も言えずに、気が付けば口を閉じ黙って聞いていた。サラの口から言われ真実は到底信じられるものではなかったが、先生の発言や態度が、それは事実であると肯定しくる。


 サラ話の終わりと同時に城の方から夜空を裂くように赤い光の柱が上った。


「あれは、炎の魔女?」


 アデリーナの言葉をサラが否定する。


「そんなはずありません。もしアリーチェ様でしたらあんなに魔力が不安定なはずありません。……そうなると。恐らくヴィットリア先生、です」

「先生は炎の魔女の眷属の騎士ではありませんか、どうして先生が魔女になれるのですか!」

「それも恐らく、先ほど言った事実と関係しているのだと思います。体の限界を迎えたヴィットリア先生の最後の炎が奇跡を起こした、のだと思います」



  ***


「これが炎の魔女の力」


 ヴィットリアは自分の手を見つめ体に流れる魔力の感覚を確認する。そして、胸の中で燃える灯を感じ取った。


「これが最後になるのね。日の出まで、と言ったところかしら」


 宙に浮くヴィットリアは城の窓に移動し、子供たちの中から息子のリノを魔法で抱き寄せ、イヴァンの元に連れて行く。


「ママ?」


 ヴィットリアがイヴァンにリノを預ける。寂しそうな声で手を伸ばし名前を呼んだ。小さなリノの手を優しく握るヴィットリアはもう何一つ想い出を思い出すことはできない。


「ちゃんとパパの言う事は聞くのよ。ごめんなさい一緒にいてあげられなくて」

「ううん。ママ、大丈夫、僕、強くなったから。泣かないから」


 必死に口を閉じ泣くのを我慢しているリノの頭を優しくなでてからイヴァンに向き直る。そして何も言わずにイヴァンにキスをした。イヴァンも抵抗することはない。


 一瞬の合間だったがヴィットリアにとっては充分な時間だった。


 優しく微笑みかけ最後のお別れの言葉を口にする。


「ありがとう、行ってくるね」

「ああ、行ってらっしゃい」


 イヴァンはためらいもなく涙を流しながら言葉を返す。これが家族としてかわした初めての挨拶だった。

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