第39話 届かない距離

 アデリーナの視界の先映る苦しむ先生の姿とその前に立つシルビア様、そしてブルー。すべてを察したアデリーナは覚悟を決め飛び出した。


「先生を離して!」


 氷の魔女の元に突進するアデリーナ。その前に立ちはだかったブルーがアデリーナの言葉もろとも剣で切り伏せる。力の差は歴然で相手にすらならない。何もできず吹き飛ばされたアデリーナはそのまま地面にたたきつけられた。這いつくばる地面の上で自分の弱さを自覚する。


 視界の先に映る鋼のかけら。それは粉々になった先生の剣の一部だった。剣が砕けようとも先生の心は鋼の様に固く、何度でも立ち上がった。立ち止まってはいけない、進まないといけない。


 アデリーナは立ち上がもう一度ブルーに挑む。何度も何度も、ボロボロになりながらも挑み続けた。


 ブルーと剣を打ち付けるたびに、その先で必死になって氷の魔女の魔法にあらがっている先生の姿が見える。


 アデリーナは失いたくない、この思い出を消したくはないといつも読んでいる名前を叫んだ。


「ヴィットリア先生!」


 その言葉に反応した先生は苦痛に顔をゆがませながら、アデリーナに目線を向け言葉を返す。


「逃げなさい!私が意識のある間に、あとは大丈夫だから」


 ブルーの剣がアデリーナを剣もろとも吹き飛ばす。地面に倒れたアデリーナはまた立ち上がり叫んだ。


「嫌です!」


 先生の言葉を否定するようにもう一度ブルーに立ち向かう。簡単にアデリーナの剣を受け止めるブルーは柔らかい声で助言した。


「先生の言う事。素直に聞くべき」


 その言葉と同時にブルーの斬撃がアデリーナの鎧を砕き皮膚を切り裂く。更に地面から伸びる氷の棘がアデリーナの足を貫き、続けてブルーの回し蹴り兜を打ち破り体もろとも吹き飛ばす。


 深く斬られ体と頭から血を流し、両足の脛の上に氷の棘が突き刺ささっている。立ち上がろうとすると足に走る激痛に、うまく立ち上がることもできない。


 朦朧とし始める意識の中、アデリーナはもう一度立ち上がろうと剣で体を支える。


 顔を上げるとブルーの追撃の氷の棘が迫っているのが見えた。しかし、今のアデリーナにその技を防ぐ手段はない。


「アデリーナ!」


 先生の叫び声に答えるように痛みに耐えながらアデリーナは手を伸ばす。


「まだ」


 朦朧となる視界の先に映る必死に耐える先生にアデリーナは言葉を返すが、その先が続かない。


 20十本にも及ぶ氷の刃がアデリーナを襲う手前で聞き覚えのある2人女性の声が重なって聞こえた。


「「迅風」」


 氷が砕け散ると2人の赤騎士がアデリーナの前に着地する。


「今は体の修復を優先して、ヴィットリア先生は私達に」

「ここは任せな、先生を助けたいのはあんただけじゃねえよ」


 それは赤騎士のサラとミヤだった。

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