第44話 いきなり1人にされる
「今日からお世話になる水ノ瓶高校の八神航平です。
よろしくお願いします?」
「久しぶりだね、航平。
僕がこの新素材開発部の4班を預かる班長だ。
……まあ、4班は僕だけだけどね」
美守により、第2支社ビルの6階で1人だけ降ろされた航平。
彼女の指示に従い、エレベーターホールの扉に設置されているインターホンを押せば、そこから出てきたのは顔見知りの親戚だと思っていた相手で……。
「美守に案内されてきたんだから、知っているだろうけど、僕も斗真会長の使徒。
元は大正時代に作られた懐中時計さ」
実際は父親に仕える天使であった。
更に言えば、自らを懐中時計と称する具合。
この間までの航平であれば、冗談と笑い飛ばす話だったが、
「懐中時計……」
「うん。
所謂、付喪神と言う奴さ」
神妙に聞き入る羽目になる。
母親が巨大な鴉になることに比べればまだ受け入れやすい。
「付喪神、古いものが自我を持つってあれですよね?
小父さんが付喪神ってことは……」
「航平の予想通りだと思うよ?
霞姉さんも夢乃も同じ付喪神。
霞姉さんは大きな柱時計で、それを作った時の余った部品で作られたのが僕と夢乃さ」
「……本当に家族なんですね」
目の前に立つ
「そうだよ。
僕ら3人はとある男爵の命令によって作られ、その人の子孫を代々見守っていた。
けど、男爵の曾孫が財産を騙し取られて焼身自殺。
その時に旧男爵邸に渦巻いていた怨念を吸って、妖魔となったのが僕らさ。
その後は、曾孫を騙した詐欺師を殺し、男爵の遺産を集めるために古美術商になった。
ただ、妖魔の僕らは徐々に周囲を攻撃する衝動に呑まれ始めて……」
『人を襲っている所を父さんが捕らえて従えたとかかな?』
物語で良くあるストーリーを想像した航平だが、
「その衝動発散のために、色々な格闘ゲームを使って、代替行為をしていた」
「はい?」
斜め上に進む兼成の言葉。
「無論、慣れと共に代替品としては機能しなくなる。
だから、より良い製品の発売と共にメインを乗り換えていった。
時にはRPGやシューティングゲームもしながら……。
そんな時に発売されたのが低額で仮想現実にダイブ出来る『アシハラ』だった」
『おかしい。
僕は妖魔の葛藤劇を聞いていたはずなのに、これじゃただのゲーマーの回想だ』
「当然、僕らは飛び付いた。
不眠不休で、溜まりに溜まった負の感情を発散し……」
困惑を続ける航平を置き去りにして、回想話を続ける小父さんのような立ち位置の付喪神。
「自分達の理性を保っていたんだが、そんなある日やって来たのが斗真会長と言うわけさ。
会長は僕らのように人間と共存を望んでいた妖魔達に、自身の使徒となることを条件にして、人に害を与えることなく生きられる術を与えて回っていたそうだ」
「……」
『……話自体はすごく良い物なのに、葛藤の対応がゲームのせいで、いまいち共感できない。
これが生きるために已む無く人を襲うって話なら、ドラマチックなんだけどな……』
「そうして、人への敵意を失った僕らは、それぞれの能力を活かして、人として生計を立てている。
僕の場合は新素材の耐久テストを行うのに有効な能力と言うことで、リンカート社に所属しているわけだ」
ニコニコと笑いながら説明する兼成からは、人ではないと言う特殊感は感じられない。
まあ、ゲーマー回想の時点で、人外的な印象は皆無なのだが……。
「さて、具体的な所を見せるから、付いてきてくれ。
結構危険なことがあるから注意事項はきっちり守ってくれよ!」
内容の割には緊張感もなく、自身のテリトリーとなるフロアへ航平を誘う懐中時計の付喪神であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます