第40話 幕間 鴉と狐
「……と言うわけで、今現在八神邸には航平君と北嶽桃花。
後は北嶽桃花の従者が男1人と女2人いる状況ですわ」
「……そう。
ご苦労様」
代々羽黒一族が護ってきた武家屋敷のような豪邸の奥間に通された門松。
彼が八神邸での出来事を報告するのは、上座でシャンと正座する老女。
羽黒家当主の
雲隠れした娘夫婦に代わって、今日1日の孫の様子を報告した門松へ、労いを掛けた老女だが、その顔はかなり渋い。
「それにしても、相変わらずご自由な神様だこと。
それに共感する娘も困ったものだけど……」
「……」
名門と呼ばれる家のことを少しは気に掛けてほしいと、つい溢す恭華であったが、その自由さに助けられている身の上の門松には沈黙以外の返答がない。
「……出来れば、八神邸に美幸と雅文を送り込みたい所だけど、止めた方が良さそうね。
今、そんなことをして口実を与えれば、どれだけの家を敵に回すか……」
「そうですね。
一応、八神に必要以上の干渉をしないと言うのが、真幸さんと斗真さんの婚姻する条件でしたから、保護者代理となるような人間は送らない方が良いかと思います」
答えにくそうな門松を気遣って、話題を変えた恭華に真面目一辺倒の返事を返す門松。
いつもの関西弁を封印する様子をみれば、恭華と斗真のどちらに重きを置いているかが良く分かる。
「となれば、どちらを送るべきか……」
「……」
本家に産まれた双子姉妹のどちらかをと、考える恭華に再び沈黙する門松。
これは双子姉妹のことをよく知らないから。
……ではない。
残念なことに……。
だが、
「姉の
どちらが良いと思うかしら?」
「……」
門松の心中を知ってか知らずか、恭華は双子の名前を出して更に問う。
もちろん、門松には答えられない。
「舅を寝取ろうとする姉よりは、航平を自分の所有物扱いする妹の方がマシかしら?
……ダメな気しかしないわね」
改めて、問い掛けようとして自分なりに結論を出す恭華。
「航平君の好感度としては、緋羽さんでしょうけど、後々の問題を考えれば、彩羽さんの方がマシだと思います。
……下手すると八神邸が廃墟になるかもしれませんけど」
斗真と恭華の連絡係を引き受けているせいで、頻繁に羽黒家を訪ねている門松。
その行き帰りに、頻繁に姉妹に呼び止められる門松は、むしろ目の前の祖母以上に姉妹の趣味趣向に詳しい節さえあった。
「緋羽の斗真様の好みを訊くのが、将を射んとであれば良いのだけどね……」
「……そうですね。
本当に……」
溜め息混じりに呟く老婦人へ染々と同意する門松。
だが、
「斗真さんの好みに続いて、航平君のことを話そうとしても、それはどうでも良いわと、首を竦められますから、難しい話だと思いますが……」
と追加の報告も忘れない。
悪い情報ほど正しく報告するのが、重要なのは会社と同じ。
「少なくとも、彩羽さんは航平君を好いているようですが?」
「あの子は不器用なのよ。
毎年、誕生日始めイベント毎の贈り物は忘れないのよ?
斗真様にしか贈り物を送ろうとしない姉と違ってね……。
けど、他の娘と共同生活が出来る性格ではないわ」
実の祖母にここまで言わせる辺りが、強烈な姉妹である。
「本当に真幸が付いていったのが辛いわ。
あの子だけでも残っていればどうにかなったでしょうに……」
と、親族の絆を信じているような言葉を呟く恭華だが、
「緋羽は恋敵として隙を見せないように振る舞うだろうし、彩羽は真幸を師匠のように敬っているから……」
と身も蓋もない言葉を紡ぐ。
古くから続く名家の当主として、的確な情報判断は必須である。
「…………」
パンッ!
しばらく考え込んだ末に膝を叩いた恭華は、
「斗真様の思惑に乗るのは悔しい所だけど、我が家からは誰も送らないわ。
羽黒一族は静観を決め込みます」
と、宣言する。
手持ちに鬼札しかない状況で、博打を打つような趣味はない羽黒当主の選択であった。
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