或る夜、蜘蛛のみた夢

よく、夢を見る。母の顔のわかる唯一の記憶、最後の記憶、恐怖の記憶。その夜は寝られず、汗で濡れた身体を濯いで、ただ窓辺でその記憶に耽ることが多い。俺がこのように生まれてしまったのが悪いのだろうか。それともあるいはこのように生んでしまった自分を呪ったのだろうか。ともあれ、あの夜以来あの人とは会わず、この身体とも折り合いをつけやっていけているという事は、ただあの人が俺を、この姿を許せなかったのだろう。おそらくあの人は我々を排斥するという立場をとっているらしいという事は聞いた。俺がまたあの人にあったとき、互いに許すことはできるだろうか。ただ、敵対していることを忘れ、ただ、元のように親子として、話すことはできるだろうか。こんな物をつけて人前に出ていることを知ったら、ほら見たことかと笑うのだろうか。もうあの人の感情も、どう話すかも上手く想像できない。元通りになる、という事がそもそも夢なのだろう、もう俺は成長してしまった。あの人の手を離れて。あの人の望まないだろう方向に。

彼女は、私を見ることができたら、あの人のように拒絶するのだろうか。そうは思いたくないが、これもまた夢なのかもしれない。

ふと思う、俺自身も皆のようには自分の身体を愛しきれていないのかもしれない。人と違うことこそを愛する彼らに対する裏切りなのかもしれない、きっと彼らの多くは俺の姿を愛するが、それでも彼らが怖がることの方が、俺は怖い。だからこそ、まだもう少しだけ待ってほしいと祈るように、縋るように夜空に呟く。俺を含む彼らの多くは虐げられてきた者たち、“外”に対して恐怖を覚えている怖がりだから。その“外”に怖がられた俺はきっと恐ろしいから。

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