廃病院
「廃病院」
これは、大学生のA子さんが体験したお話。
とある夏の日、同じサークルの先輩から肝試しに誘われたA子さん。
行先は隣市にある心霊スポットとして有名な廃病院。
心霊の類は信じていなかったA子さんは面白そうと軽い気持ちで肝試しに参加する事にした。
肝試しに行く事になったメンバーはA子さんと先輩を含めた4人だった。
他二人はA子さんと面識はなかったが先輩曰く、同じ大学の先輩らしい。
先輩の運転で肝試しへと向かったA子さんは道中、二人とは初対面という事もあり話題にはあまり困らなかった。
どんなサークルに入っているか、どこでバイトをしているか等々、他愛も無い会話をしていると運転していた先輩が訝しげな声を上げた。
「あれ? おかしいな?」
その言葉に反応したのは、A子さんだった。
「どうしたんですか?」
「それが、ナビの調子がおかしくて同じ場所をぐるぐる回ってるの。本当ならもうとっくに着いているはずなんだけど……」
「まさか、そんな事ある訳ないだろ」
先輩の一人が冗談はよせと言うが、運転している本人の表情は真剣そのものだった。
それから、四人はナビの音声案内が異常である事にすぐ気が付いた。
300m先、右折です。その先、500m先右折。
およそ600m先、右折してください。
何度も右折するように指示を繰り返すナビは、誰が聞いても以上だった。
地図を見ても先輩が運転を間違えているという事もない。
先輩の言う通り、A子さんが乗っている車は隣市の中で同じ場所を何度も回るように右折を繰り返していた。
「なんだか、気味が悪いです。今日はもう帰りませんか?」
それは直感的に嫌なものを感じたA子さんが、運転席に座る先輩に言った言葉だった。
他の同乗者達もA子さんの意見に同意し、先輩はナビの声を無視して帰る事にした。
やはり、廃病院は行ってはいけない場所だったのだと、先輩の内の一人が言った言葉が印象的でA子さんは今でも覚えている。
正直、廃病院に行く途中のそれ以外の会話は恐怖のせいか、あまり覚えていなかった。
結果的に、廃病院に肝試しへ行くという目的は達成出来なかったが、それでよかったのだと思った。
季節は秋へと変わり、自動車学校へ通い始めたA子さん。
ある日、自動車学校の帰りバスを予約し忘れていたA子さんは自動車学校から最寄り駅まで歩いて行く事になった。
A子さんの住んでいる市には自動車学校が無い為、A子さんは隣市の自動車学校へと通っていた。
自動車学校から駅へと歩いている途中、急にA子さんの背筋に鋭い悪寒が走った。
無意識的に歩みを止めたA子さんは車道を挟んで向かいに視線を向けると、そこには厳重に施錠された廃病院が建っていた。
その時、A子さんは直観的に“ここだったのか”と悟った。
夏の日に向かおうとしてたどり着けなかった廃病院。
それが、何故今になってA子さんの前に現れたのか、それはA子さんには分からなかった。
ただ、一つだけ。
この廃病院は決して足を踏み入れてはいけない場所だという事だけ、A子さんは分かってしまったと私に語ってくれた。
A子さんは廃病院から逃げるように帰宅しましたが、もし興味本位で足を踏み入れてしまっていたら……。
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