第14話 弁当。四つ。

 チャイムが鳴って、お昼を知らせる時間がやってきた。


 当然のように多くのクラスメイト達が仲良いグループに分かれて席を囲む。


 その中、桜がいつもと違う雰囲気を出す。


「みんな。ごめんさない。今日から彼氏と食べるから許して!」


「え~そんなぁ……」


「本当にごめんね?」


 当然刺すような視線が俺に集中したのは言うまでもない。


 それくらい桜がみんなに好かれていて、一緒にいたいんだと思う。


 その時、扉が開いて、理人が入ってくる。


 女子生徒達の目の色が変わるのは言うまでもなく、悠々と歩いてきた理人がクスクスと笑う。


「このメンバーで食べるの久しぶりだな。新しいメンバーが増えたが」


「すまんな」


「なに、りく姫のご飯が食べられるなら、喜ばしいくらいだ」


 俺と前の席の人のテーブルを合わせて二つにして、俺の前に理人、横に桜、桜の向かいに平林さんが座る形になった。


「初めまして。平林です」


「萩原理人。理人って呼んでくれていいよ」


「ふふっ。理人くん。これからも・・・・・よろしくお願いします」


「そんなに固くならなくてもいいよ。どうせ、これから毎日一緒に飯を食べる仲だし」


 爽やかな笑みを浮かべる理人。イケメンと言われる所以だな。


 それからテーブルの上に弁当を取り出す。


 それぞれ色が違う風呂敷と弁当箱だ。中身は一緒だけど、今まで盛り方を変えていたピンク色の弁当も同じ盛り方にしている。


「「「いただきます!」」」


 三人が手を合わせて食べ始めると、すぐに顔が緩んだ。


「やっぱりりく姫の弁当は最高だな」


「だから姫じゃねってば」


「えっへん。うちのりくの弁当どうよ!」


「イチャイチャはほどほどにしてくださいまし」


「これはイチャイチャのレベルじゃないので!」


 何だか二人の間に火花が散ってる気が……?


 その姿を見た理人は苦笑いを浮かべて弁当を食べ続ける。


 まさかこの四人で食べる日がくるとは思わず、何だか色々変わってしまったが入学して二週間とかだけど、ようやく少し話せる友達ができた感じだな。


 桜の件があるから、他の男子から近づいてくる気配は一切ない。


 普通ならゲーム好きなグループに属して色々話してみたいが、桜の彼氏ということが尾を引いて、誰も俺に近づこうとはしないからな。


 陽キャ代表桜の彼氏として見られるし、陽キャグループからは疎まれているから。


 食事が終わって、みんなで自販機のところにやってきた。


「りく。いつものでいいか?」


「ううっ。いや、違うので……」


「ん? りく……?」


 桜がジト目で見つめてくる。


 甘い飲み物は極力避けられているからな……。


「ちょっとくらい、いいじゃないの。そんなことしてると彼氏くんに嫌われるわよ?」


「えっ!? ほ、ほんと?」


「お昼の至福の時間を邪魔させたらダメでしょう。ほら、陸くん」


 俺が好きな飲み物を何故か知っている平林さんが飲み物をくれる。


「えっ、お金は」


「いらないわよ。いつも作ってもらってるし、食費くらいじゃ足りないからね」


「俺の分を取らないでよな、颯子ちゃん」


「ふふっ。早い者勝ちなのよ。理人くん」


 理人と平林さんの間に火花が散る。


 俺の飲み物くらいで何を競うのか。


 いつもお茶を飲んでいる桜が、俺と同じ赤いパッケージのパックの飲み物を買った。


「あ、甘い……」


「そりゃ、そういう飲み物だからな」


「…………一日一本までよ?」


「分かってるって」


「…………甘っ」


 普通女子って甘い物が大好きとかいうけど、桜はそうでもないよな。ケーキとかどら焼きとかイマイチ食べないし、どちらかといえば、あまり甘くないお菓子を好んでる。


 自販機の前でダラダラと過ごして、チャイムが鳴ったのでそれぞれクラスに戻った。


「理人またな」


「おう~明日もよろしく~」


 理人だけ隣クラスだからクラスの前で別れる。


 そういや、桜のやつ、今日理人と一言も喋らなかったな。できれば、もっと近づいてほしいものだが……。


 それから授業が終わり、何もない一日が終わった。


 今日は珍しく平林さんと桜が並んで歩き、何か楽しそうに話し合ってる。


 所々ちょっと火花が散ったりするが、そこは桜らしくすぐに打ち解けてしまうようだ。


「今日も送ってくれてありがとう~」


「ううん。方向も一緒だし、気にしないで」


「では二人ともまた明日」


 平林さんが家に入るのを見てから、俺達も家に戻る。


 帰り道、ビタッとくっつくくらい近づいてきた桜が、右手を差し出した。


「ん?」


「手~」


「…………」


「ダメ?」


「いや、いいけどさ…………」


 触れた左手に柔らかな感触が伝わってくる。


 手を繋いだだけなのに、心臓がドキドキと跳ね上がる。


 ふと、以前ぎゅっと抱き合った時のことを思い出して、顔がより熱くなるのを感じる。


「平林さんって意外にフレンドリーだね~」


「あ。俺も思った」


「りくが仲良くなるのも頷けるよ」


「えっ? 俺?」


「うん。二人のきっかけは分からないけど、保育園の時のりくと変わらない感じがした」


「保育……園?」


 全く覚えていない。


「ふふっ。りくは覚えていないかもしれないけど、私はちゃんと覚えてるから。多分理人くんもそうじゃないかな? だから、平林さんももしかしてそういう気配を感じたのかもね」


 桜が何を言っているのか全く理解できないが、何か納得したのならそれでいいか。

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