第42話 農園でのお仕事
私達の視線の先には広い農園が広がっていて、多くの人が魔法やタルから水を撒いている。
「あれに参加する……っていう事なのかな」
「だろうねぇ」
クルミさんの疑問にミカヅキさんが答える。
私達はどうしたらいいのか。
そう思っていると、ほほにそばかすの残る女性が声をかけてくる。
大人びた雰囲気をしていて、長い黒髪をまとめて動きやすい服を着ていた。
「あなた達、もしかしてここで働く人⁉」
彼女は疲れを浮かべた表情で聞いてきた。
クルミさんが代表して答える。
「はい。村長からここの農園で水やりを手伝う依頼を受けてきました」
「ほんと⁉ やった! わたしはラミルよろしくね」
「よろしくお願いします」
私達は軽く自己紹介をした。
その後は彼女が早速という感じで依頼の内容に話を向ける。
「それで、水魔法が使えるのは何人⁉」
「あたし1人ですよ」
「そっか、なら、あなたはここからまっすぐに水をあげていって。一番奥まで行ったら次は一列こっちにやってね」
「量はどれくらいあげればいいんですか?」
「これくらいだよ」
彼女はそう言ってひしゃくを出し、近くのタルに入っている水をすくう。
そして、それを野菜の苗にむけてかける。
「一回これくらいで」
「分かりました」
「じゃあ他の3人はこっち。ついてきて」
「え? あたしは1人ですか?」
クルミさんが
それに、ラミルさんは申し訳なさそうに謝る。
「ごめんなさい。今は本当に人が足りていないの。だから許して」
「あ、別にそんな訳では」
「ありがとう。では他の子はこっちよ」
そう言って彼女はスタスタとかなり早足で移動していく。
私達も急いで彼女を追いかけると、彼女は農園と村の境い目にある大きな納屋を目指していた。
そして、その周りには先ほど彼女が水をすくっていたタルが置いてある。
「で、ここに荷物はおいて」
「はい」
私達……といってもネムちゃんくらいだけれど、荷物をおく。
それから私が聞くと、ラミルさんが答えてくれる。
「あのタルに水をくむんですか?」
「察しがいいね。そうだよ」
「水はどこでくめばいいんですか?」
「それも今から案内するわね。1人1つタルを持ってちょうだい」
「はい」
私達はそれぞれタルを持ち、先を歩くラミルさんに続く。
彼女は納屋から南、農園の方に続く道を進む。
そこだけは大通りになっていて、普通の町などよりも広い道になっている。
両サイドには多くの野菜や小麦等が植えられていて、手入れは本当に行き届いている。
一番奥までは2キロくらいはあっただろうか。
こんな森の中に良く作ったと思う。
一番奥に来た私達に、ラミルさんは言う。
「ここから村の外に出て、近くに川があるの。その川からタルで水をくんで、農園にまた運ぶ。それをできるだけ繰り返して」
「タルで運ぶんですか?」
「ええ、そうよ。どうして?」
「いえ、マジックバックではできないのかなと思いまして」
でも、それは出来ないと彼女は話す。
「マジックバックって普通に希少品でしょう? そんなことには普通使えない。それに、マジックバックは液体は入れられないのよ」
「そうなんですか?」
クルミさんや師匠はポーションとかお酒をいれていたように思うけど……。
私の表情を察してくれたのか、彼女は教えてくれる。
「その顔はポーションとかはどうして……って思っている顔ね」
「わかります?」
「まぁね。人の顔色を見るのは得意だから……と、それはいいとして、ポーションは結構特殊な容器に入っているでしょう? あれは特殊な容器にきっちりと入れることによって、マジックバックにそれは液体と思わせないようにしているのよ」
「それなら、水も同じようにはできなんですか?」
私が聞くと、彼女はニヤリと笑う。
「いい提案だね。だけど、それはあんまりおススメしないの」
「どうしてでしょう?」
「さっき言ったみたいに、ぴっちりとやるにはそれなりに手間がかかるんだよね。だけど、ここと川までの距離は結構近くて、それをやる時間を移動にした方が早いんだよね」
「なるほど」
「と、言う訳。ほら、着いた」
歩いて5分も経っていない。
目の前には幅5ⅿくらいの川があった。
それから私達は川の水をタルに入れ、それを持って農園に戻る。
という事をすると教えてもらった。
という訳で、私達はタルに水を入れて農園に持っていく。
そんな仕事を始めた。
「……できるかな」
私は最初両手で1つのタルを持っていたんだけれど、なんだか片手でできるんじゃないのか。
そんな風に思った。
私はタルを取る所にいた人に聞く。
「あの、タルって2個持っていってもいいですか?」
「? ああ、問題ないよ」
「ありがとうございます」
それから私はタルを持ち、両方に水をいっぱい入れる。
「この後は……よっと」
私はタルを少し持ち上げ、そこに片手を入れる。
それを両方やって、持ち上げるだけだ。
「おっとと」
タルの中の水が揺れ、ちょっとバランスを崩しそうになる。
なんとか持ち直し、すれ違う人とぶつからないように頭より高い位置に持ち上げて戻る。
「……」
「……おい。あれ……」
「……ああ……なんだ……あれ……すげぇ」
戻る時にすれ違う人みんな私の事を見てくる。
どうしたのだろう。
顔になにかついているかな?
そんな事を思いながら農園に戻ると、ラミルさんが大きく目を見開いてとんでくる。
「ちょ、ちょちょちょちょ。大丈夫なの⁉」
「え? はい。問題ありませんよ」
「えぇ……水が半分しか入ってないとか……?」
「満タンくらい入れていると思いますけど」
私はタルを下に降ろし、ラミルさんが見やすい位置に置く。
彼女はタルの中をのぞき込むと、息を漏らす。
「すごい……ねぇ。せっかくだからもうこの村に移住しない?」
「突然過ぎません?」
一体何がせっかくなのだろうか?
「いや……でも……ここまでできる人なんて……男でもいないよ? そんな細い腕のどこに力が……」
「私、山奥で暮らしていたので、だからなんじゃないかと」
「山奥で暮してる人ってみんなそんなすごいの?」
「1人で暮してたので、他の人の事はわかりません」
「なら君がやっぱり特別なんじゃ……」
と言って彼女は悩んでいるので、私は聞く。
「次のにいってもいいですか?」
「え……そんな簡単に……いえ、でもお願いするわ」
「はい」
私はそれから毎回タルを2つ持ち、順調に運んでいく。
「あれ毎回やってんのか……?」
「えげつねぇ……」
私がタルを結構な速度で運ぶので、途中から運ぶ何人かは水をまく方に移動になる。
それでも私が運ぶ速度の方が速かったらしく、水の入ったタルはどんどんと入り口に積まれていく。
「おいこれ……俺達いるのか?」
「まぁ……一応仕事だし……」
そんな感じでタルを積み上げていき、ついには水の入っていないタルがなくなってしまった。
なので、ラミルさんの所にいく。
「ラミルさん」
「サフィニアちゃん、どうかした?」
「タルがなくなりました」
「……なんだって?」
「タルがなくなりました」
「もう一回だけいってくれない?」
「タルがなくなりました」
「……なくなったっていう意味は……」
「水の入っていないタルがなくなってしまったんです」
「まじでその意味だったのね……」
彼女は手を止めてどうしようか考えている。
「まぁ……それなら……ちょっと……休憩していていいよ?」
「はい。分かりました」
私はそれからかなり汗をかいて疲れているネムちゃんとミカヅキさんに声をかける。
「2人とも、ちょっと休憩をしてもいいそうです」
「分かったよ。これを運ぶまで待ってて」
「はい」
ミカヅキさんはそれで運び続けるけれど、ネムちゃんは疲れた表情のままただ運び続ける。
「ネムちゃん? 大丈夫ですか?」
「……はい。大丈夫……なのです。わたしも……力になるのです」
「う、うん。頑張って……」
彼女はそう言ってなんとか運んでいく。
それから、タルが飽き次第運んで、最終的には私達だけで南の農園の水は回せるようになっていた。
日も暮れ、後は宿で寝るだけだ。
クルミさんとも合流して、ラミルさんに最後のあいさつに行く。
「それではラミルさん。お疲れ様です」
「うん。その……色々とありがとう。体……本当に大丈夫?」
「? はい。まだまだ運べますよ?」
私がそう言うと、ラミルさんはちょっとひきつった笑顔をうかべていた。
「そ、そう……それじゃあ気を付けてね」
「はい。あ、この村で宿でおススメってありますか?」
「え⁉ 宿⁉ まだとってないの⁉」
「はい。そうですけど」
「多分だけど……もう……宿は埋まっちゃってる……」
「本当ですか?」
「しかも……今は結構危ないから、家がないのはまずい……特に可愛い女の子だし……うーん。すっごく頑張ってくれたし……わたしの家にくる?」
ラミルさんはそう提案してくれた。
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