第3話 リア充大学生
「はっはっは!高校の時以来かな?元気しているか?」
声も大きく、ボディビルをやっているかのような筋肉質。
眼鏡をかけているものの決してオタク風ではない。威圧感は抜群だ。
「はい!おかげ様で。日頃から街の安全を守って頂きありがとうございます!」
「そういえば田中君は今、そこにある市立大学に行っているんだってな。頑張っているね。いい事だ。今は業務中だから長話は出来ないがまた色々とまた相談してな」
「頑張ります。杉田警部もお気をつけて」
「じゃあね、田中君」
自治会長の須藤も手を振る。
弘樹は一礼すると北に向かって歩き出す。後から雅敏が小走りでついてくる。
「弘樹君、すごいなあ。何の縁で刑事なんかと知り合いになったんだよ」
「ああ、高二の時にあったろ?我が都立西中岡高校に他校の生徒が一人乱入した事件が」
「あったあった。西中岡工業高校の奴がウチの高校の敷地に乗り込んできてさ。
少しの時間、立てこもりがあったと言うやつだな。あれもすぐに君が駆けつけて瞬殺して即解決したんだよな。カッコよかったぜ」
「その時に双方の校長や教育委員会だけでなく、警察からも事情聴取を受けた。その時に私の相手をしたのが杉田警部ってわけ」
「そうなのか・・。やっぱすごいな。ハハハ」
二人は駅北口広場から一本の大通りを進んでいく。大型ショッピングモールの白亜の建物が両脇に控える。ライトノベルで出てくる中世ヨーロッパの王宮のようだ。一瞬だけどラノベの主人公になれる空間である。
営業時間外であり客がいないことがかえって厳かな雰囲気を醸し出していた。
そこを抜けると「現実」が待ち構えている。
市立の西中岡大学のシンボルである三角屋根の建物が見えてくる。
「さ、今日も頑張ろう。今年もあと少しだ」
大学の敷地に入る。並木のような広場の脇には白く清潔な建物、重厚な赤レンガ建物が荘厳な雰囲気を醸し出していた。
「おはよう」
「今日もよろしくな」
同じ大学の学生らと挨拶を交わす。
大学キャンパスを闊歩していると、大学生であることを実感する。
ある意味、この雰囲気は先程のラノベの荘厳な雰囲気を受け継いでいるとも言えた。
途中に二人の銅像と小さな広場が見えてくる。
市立西中岡大学は戦後間もない頃、若者らに地域密着の高等教育を受ける機会を設けてやりたいと当時の西中岡市長の吉田次郎が音頭を取り始めたのが設立のきっかけだ。
もう一人は初代学長の嶋田一。その二人の銅像は大き過ぎず、小さ過ぎず自己主張もせず学生らを見守っていた。
小さな銅像広場を過ぎると大型講堂の建物があった。そこに入ると結構な数の学生が既に授業を待ったり、予定の確認をしたりしていた。意識の高い学生が多かった。大型掲示板があり授業の予定などが張り出されている。IT時代ではあるものの昔ながらの掲示板もまだ健在だ。
直接掲示物を見るという物理的な視点もまだ必要なのかもしれない。
掲示板を見つつ二人は会話を交わす。
「一時限目は僕は政治学原論だからここの大教室だな。雅敏君は確か経済概論だろ?後でまた会おう。LIMEをくれよな」
「おう、では二階教室へ行くわ。早めに行ってちょっと予習でもしておくかな」
「またな」
雅敏は階段を軽快に駆け上がっていった。見送る弘樹。
廊下にある椅子に腰かける。
ここ市立西中岡大学は政治経済学部・人文学部・法学部・情報工学部・福祉健康学部の5学部を要する総合大学だ。更に大学院もある。
弘樹や雅敏の所属する政治経済学部。学科は三つある。
①地域政治学科。通称「チセイ」。文字通り主に地域の政治政策を学ぶ。
②地域経済学科。通称「チケイ」。地域の経済だけでなく経営や人・モノ、流通なども学ぶ。雅敏が所属する学科だ。地域経済を学びたいという彼の意向だ。
③地域都市学科。発展を続ける西中岡ニュータウンを見越して近年新しく新設された学科だ。通称「チトシ」。弘樹が所属する学科だ。
地域密着型の西中岡大学らしい。
弘樹は小さい頃から公共交通機関が大好きで地図を見るのもまた大好きだった。新しくできる道路や建物を興味深くワクワクと眺めていた。成長してからも同じだった。
この生まれ育った西中岡市の街づくりに携わってみたい。その思いがチトシ学科を選んだ理由になった。街づくりに先導的に関わるなら市職員を目指したい。ならばチセイ学科では?と思うだろう。正直迷った。でもやっぱり街づくりが好きだからチトシ学科を選んだのだ。
弘樹はカバンの中から公務員受験対策本を取り出してパラパラとめくる。しばらく見つめるとカバンにしまい、西中岡とその周辺の地図ハンドブックを取り出した。
スマホで地図を見る時代でも紙の地図は弘樹にとっては特別なものであり安心できる小物だった。
常にカバンに常備してお守りみたいに持ち歩いていた。
「この大好きな西中岡市を更に発展させて楽しい街を作り上げていくんだ・・」
地図をみつめると呟いた。
その時だった。
「おはよう!弘樹さん」
若い女性の声が背後から聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます