第19話 そういうこと
そして当日。
俺は母さんに浴衣を着付けてもらい、どこかそわそわした感じで待っていた。すると、
ピンポーン♪
玄関の扉を開けると、落ち着いた印象の藍色の地に艶やかな花火の柄の入った浴衣に身を包む、髪をアップにした涼花が立っていた。そんな彼女は大人っぽくて…
「ん!んん!」
わざとらしく咳払いした後、一旦彼女を迎え入れる。あ、後ろ姿もやばい…うなじが…
そんな俺の動揺を見透かしたように、悪戯っぽい笑顔で「見すぎ」と振り返って言う涼花は、控えめに言って可愛いすぎる。
「でも…凌くんも着てくれたんだ…」
「え?」
「その…浴衣…」
「ああ、うん…」
「えへへ…良かった…」
「そうか…」
「似合ってる…」
「涼花も似合ってるよ…」
「う、うん…ありがと…」
照れる…こんなの照れるってば!!
「ほら。準備出来たならさっさと行きなよ」
「か、母さん…」
「イチャイチャするのはいいけど、程々にしときなさいよ」
「してないって!」
「そう?」
からかってるくせに、スンって真顔で言わないでくれ。普通に恥ずい。
「もう…凌くんってば…」
「いやいや、何もしてないじゃん」
「…何かしたいの…?」
「は?」
「なんかやらしい…」と呟き、頬を染め、もじもじする涼香。
「な…ち、違うって!」
「もう…そういうのは、もうちょっと大人になってから…ね?」
「え…」
少しはにかんだ笑顔で言うのは反則だ…
攻撃力が…高すぎる……
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
なんとか気持ちを落ち着かせ、二人で歩いて待ち合わせ場所に向かう。
「今日晴れてよかったな」
「ほんとだね。雨だと中止だったかもだし」
冷静を装ってはいるけど、まだちょっとドキドキしてる。おかしいな。中身はまあまあおじさんのはずなんだけどな。
そんな俺の心の内を知る由もない涼花は、いたって普通に、楽しそうに歩いている。
あれ?なんで普段通りなんだ?
そりゃ、いつまでもさっきのやり取りを引きずられるよりかはいいけど、でも、それはそれでなんか悔しい。しかも、
「凌くん」
「なに?…って!」
「ふふ…」
涼花はしれっと手を繋いできた。
いや、もちろんもう付き合ってるし、それはそれでいいんだけど…けど!!
「うふふ…手繋いだくらいで照れてる♪」
しかも上機嫌でからかってきた。
「いや、違うよ?」なんて素っ気なく言おうものなら、折角のご機嫌を損なうのは目に見えているので我慢する。
実際照れてるしな!!
…でも、このままやられっぱなしなのは面白くない。
そこで俺は、前を見ながら、何気ない風に指を絡ませ、恋人繋ぎに繋ぎ直した。
「っ…!」
途端、涼花は目を大きくさせ、首まで真っ赤になって固まってしまった。
(はぁ···初心で可愛いなぁ···)
「ダメだった…?」と、敢えて不安そうに俺が聞くと、「だめじゃない…から…」と、少し俯いて、消え入りそうな声で、恥ずかしそうにそう答えた。
(こんなに可愛かったんだな、涼花は…)
「ん?どうした?」
「も、もう!」
「怒ってる?」
「怒ってないってば!」
「そう?」
「うぅ…いじわる…」
もじもじしてても、手はしっかりと握ってくれる彼女に、俺は改めて「今度こそ涼花と一緒に…」と誓う。
「ほら、行くぞ」
「わ、分かってるってば…」
なんだか体が熱く感じるのは、外の熱気のせいだろう。
うん、そういうことにしておこう。
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