「さぁさあ、水氷（みずごおり）を喰（く）らはせやふ」

　一力（いちりき）茶屋（じゃや）ではあるまいし、と、波（なみ）のさざめく水辺（みずべ）に舟（ふね）を出（だ）した。

　東湖（とうこ）どのを亡（な）くされてから、あの方（かた）は、と、「男（おとこ）」は、なげいた。

　もとから淋（さみ）しい気持（きもち）であり、ここがあかほから遠（とほ）いむねを幸（さいはい）とした。

「せりたちて　市場（いちば）うごきぬ　江戸（えど）の街（まち）」

　これより　男（おとこ）　を　せりさわ　と　呼称（こしょう）する。

　男（おとこ）は、江戸（えど）の出（で）だった、権現様（ごんげんさま）の元（もと）にて育（そだ）ち、

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