第467話 英雄男爵の死

 ノノノカの指示で、全員が椅子に座ると、彼女は神妙な面持ちで話を始めた。


「ここしばらく、貴族たちが怪しい動きをしていたのは、冒険者ギルドも掴んでおった。国政は国民の生活に繋がり、ワシら冒険者にも影響してくるからの。貴族内での情報は常に収集しておる。じゃが、貴族ともなれば、計略や謀略は日常茶飯事。足の引っ張り合いが跋扈する毒の沼地のようなものじゃ」

「そのような状況でも、冒険者ギルドは『怪しい』と判断したわけですよね。普段とはおかしい何かがあった。そういうことですか?」

「そうじゃ、ヒロヤ。ワシが最初におかしいと思ったのは、ドルマリン男爵の不審死だったのう」

「ドルマリン男爵の不審死?」


 ベルソード家当主であるノノノカの話に、言葉を挟めるのは冨岡くらいだ。疑問を持ち、話を深掘りするのは自分の役目だ、と言わんばかりに問いかける。

 ドルマリン男爵。男爵とは爵位を持つ者の中では最も立場が低い。その中でも、ドルマリン男爵はとある功績を認められ、数年前に貴族になったばかりだ、とノノノカは語った。

 その功績とは『魔王の討伐』である。

 ドルマリン男爵は当時、爵位を持たぬ兵士長。爵位がなければそれ以上の出世は望めない。そんな状況だった。


「まぁ、ドルマリン男爵自体に出世欲はなかったらしいがの。じゃが、兵士としてだけではなく、指揮官としても才能を持っておったそうじゃ。貴族というだけで兵士たちの上に立つ、そんな能無し共よりも、大きな期待を背負っていた。そんな時、ドルマリン男爵は魔王討伐という任務に組み込まれたのじゃ。彼の指揮する隊が魔王を発見したのは、偶然ではなかっただろう。対象の動きを読み、地形を把握し、魔物を倒し進んだことで発見に至った」

「・・・・・・有能な人だったんですね」


 そう答える冨岡だったが、内心は複雑だ。ドルマリン男爵が魔王を討伐した、ということはリオの父親を殺した相手である。

 そして、冨岡がそう感じていることをノノノカは察していた。彼女は冒険者ギルドの情報網を利用し、全てを知っている。特に冨岡の周辺に関しては念入りに調べられていた。


「ドルマリン男爵は、正義感の強い男だった。周囲の者はそう語っておる。まぁ、正義など、人によって大きく違うものじゃ。彼にとっての正義は、国を守ること。そういうことじゃろう。一般的に魔王は、大罪人と知られておるしの。さて、続けるぞ。ドルマリン男爵は、魔王討伐の功績を認められ、男爵という地位を得た。じゃが、それは彼の意思ではない。英雄として関心を集める彼を自分たちが利用するために、一部の貴族が国王に進言し、叙爵に至ったのじゃ」

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