第444話 ノノノカは安堵する。
ここまで簡単に話が進むとは思っていなかった。
冨岡自身、こんな怪しい話はないと思う。突然現れた男が、消えた娘の子どもだ、と名乗ったのだ。信じる方がどうかしていると言ってもいい。
信じてもらうことはこの場において得なはずなのに、何故か落ち着かなかった。
「あの、でもシャーナさんの年齢を考えれば、俺が息子って無理がありませんか?」
心理的な反発とでも言うのだろうか。冨岡はあえて信じない理由になり得ることを言ってみる。
もしかするとノノノカに対して無意識に、よく考えるように促しているのかも知れない。
それに対してノノノカはあっけらかんと笑って見せた。
「ふっ、わざわざそんなことを言うのは、既にヒロヤが答えを持っておるからじゃろう。ワシがあまりにも話を受け入れるから、不安になり話を長引かせようとした。よくあることじゃ。上手い話には疑ってかかる、それは人として健康的な心理状態と言えるじゃろうな。しかしな、ワシはこの短時間で信じたわけではないぞ?」
「え、でもさっき俺のことを孫って」
「そうではない。信じたことを否定はしておらん。短時間の方じゃ」
冨岡はノノノカが何を言っているのかわからず、首を傾げる。ノノノカと言葉を交わした時間はそれほど長くない。大切なことを話していると考えれば、短時間だったと言っていいだろう。
不思議そうな表情の富岡に対して、ノノノカは優しげながらも憂いた目で微笑んだ。
「五年・・・・・・ワシは五年間、シャーナの行方を探し続けた。どうして娘が目の届く場所で生きているうちに、そばにいてほしいと言わなかったのか。どうして娘の自由にさせたのか。考えぬ日はなかったよ。シャーナが消えた理由もな。じゃが、一切その真実に辿り着く情報はなかった。藁にもすがるような思いで、それこそ『人霧散』の伝承を調べもしたな」
「ヒトムサン?」
「霧のように人が消える伝承じゃ」
そこで冨岡は美作から聞いた話と繋げる。こちらの世界にも『神隠し』に似た伝承があると彼は言っていた。それが人霧散なのだろう。
一々止まっていては話が進まない。疑問を抑え、冨岡はノノノカの話を聞く。
「短時間じゃなく、五年間。そういうことですか?」
「そうじゃ、お前との話は答え合わせみたいなもの。五年間、様々な可能性を考えたが、どれも納得には至らんかった。しかし、ヒロヤ・・・・・・お前の話は何故か納得できたんじゃ。おそらく、ワシが得てきた情報とお前の話が綺麗に一致した。そういう積み重ねが納得につながったのじゃろう」
そうか、と冨岡は理解する。
彼女はずっと『救い』を求め続けていたのだ。解決できない問題に立ち向かうのは、出口の見えない暗い道を歩き続けるようなもの。時間だけが流れ、心が磨耗していく。
それでもノノノカは、諦めずにシャーナの情報を求め続けた。そうした積み重ねの中、最後のピースを探し続けていたのである。
最後のピース。それが『異世界転移』という常識から外れは現象なのだ。
「それで、ヒロヤ。シャーナの年齢とお前の年齢。その問題をどう解決した?」
「時間のズレです」
冨岡は異世界転移には時間のズレが発生する、と説明した。さらに通常異世界転移は一度しかできないものである、と加える。
するとノノノカは安心したように「そうか」と呟いた。
その安堵は『シャーナが自らの意思で帰ってこないのではない』ということに対してのものだろう。
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