第442話 理解できない事象がもたらす理解

 突然現れた女神は、突然消える。

 言葉の最後、音量をゆっくり下げるかのように消えていき、冨岡は頭に響く違和感から解放された。

 それと同時にノノノカの声が聞こえる。


「トミオカ、一体何をボソボソと喋っておるのじゃ」

「ノ、ノノノカさん」

「ようやく聞こえたようじゃな。突然頭を抱え、約束がどうとか呟いておったが、何があった?」


 問いかけられた冨岡は悩む。女神様(仮)の存在を軽率に話していいのだろうか。いや、いいはずがない。相手は仮にも、(仮)だが神なのだ。


「いや、頭痛がしてしまって。すみません、話を続けましょう」

「なんじゃ? ただの頭痛ではなかったろう。ワシに言えぬことか?」


 そう言うノノノカはこれまでと違い、優しげな表情を浮かべている。

 彼女も気づいたのだろう。本当に冨岡の母親がシャーナ・ベルソードであれば、冨岡はノノノカの孫ということになる。

 冨岡が何か事情を抱えているのなら、話してほしいと思ったのだろう。

 しかし、冨岡は首を横に振る。


「そんなんじゃないですよ、頭痛がひどくて変なことを口走っただけだと思います」

「そうか、それならば良いが。お前はこの世界の常識から外れた存在じゃ。ワシにはわからんこともあるじゃろう。だが、聞ける話もある。そのためにもう一度問おう・・・・・・トミオカ、お前の母はシャーナ・ベルソードという名で間違いないのか?」

「俺も断言できるわけじゃないんです。ただ、俺の両親を知っている人から、その名前を聞きました。俺の母親はシャーナ・ベルソードだと」


 冨岡の口からしっかりと答えを聞いたノノノカは、言葉を噛み締めるように頷いた。


「そうか」

「信じてもらえるんですか?」

「ワシはずっと疑問を抱き続けておった。ベルソード家の情報網を持って、シャーナの消息を掴めないことなどありえん、とな。それについて様々な可能性を考えた。冒険者ギルド内にシャーナを匿っている者がおるのではないか、人知れず死んだのではないか。じゃが、ベルソード家の意向に逆らいシャーナを助力するメリットがあるとは思えん。またシャーナがその辺で野垂れ死ぬともな。お前の話が、忽然と消えたシャーナの行方の説明として最も理解できたんじゃ。想像も理解もできん事象が、最も理解できるとは皮肉な話じゃがな」


 ノノノカは腕を組んでから「それに」と話を続ける。


「トミオカ、お前に関する不可思議な情報もそれで説明がつく」

「俺の、ですか?」

「ああ。他国から現れた商人だと言っていたが、お前の足跡が掴めんかった。そして、どの国にも当てはまらん料理を生み出したのじゃ。それが異世界のものだとすれば、納得できる」

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