第440話 ちょっとしたきっかけで人は生きていける

 これまで頑なに、一番信頼しているアメリアにすら話していなかった異世界転移について語り始める冨岡。


「驚かないでください・・・・・・って言っても無理な話かもしれませんが、俺はこの世界の人間ではありません。他国の商人っていうのも嘘です」

「ほう、続けろ」

「驚かないんですか?」

「お前が驚くな、と言ったんだろう。いいから話を続けるのじゃ。面白い話だぞ、トミオカ」


 予想外な反応をするノノノカに対し、安堵のようなものを覚えた冨岡は、自分でも驚くほどスムーズに口が動いた。


「異世界転移ってやつです。俺は違う世界から、この世界に転移してきた。俺にあったのは向こうの世界での知識と、じいちゃんが遺してくれたお金でした」

「知識と金か。確かにそれがあれば、何でもできるのう。極端にいえば世界さえ手中に収められる。馬鹿と剣、金は使いようじゃな。ふむ、その金を使ってこちらの世界で店を開いたわけか。金を使って更に金を産む・・・・・・商売の基本じゃが、それだと理論が破綻しておるぞ。お前の話が本当だとして、稼ぐためにこちらの世界に来たのなら、何故あの教会を救った?」


 やはりノノノカは冨岡について調べ、その行動を把握しているらしい。

 彼女の言葉を受けた冨岡は、小さく首を横に振った。


「いえ、俺の目的は商売をすることじゃないんです。むしろ、ノノノカさんが言う理論破綻の原因が俺の目的でした」

「教会を救うことが、か?」

「人を助けること、です」

「とんだ聖人じゃな。それとも舌を二枚持つ大悪党か? 人を助けること自体が目的、などと言う者は大抵悪人と決まっておるがの。しかし、お前の行動調書からは、本当に人を救うために動いているとしか思えん。何故お前は人を救いたい?」


 ノノノカは冨岡の話を信じてくれたどころか、詳細は話まで突っ込んで問いかけてくる。

 普通ならおとぎ話だ、と笑ってもおかしくはない。今話しているのは、異世界のことだ。

 それでも彼女は疑うどころか、強い興味を示す。

 冨岡はそんな彼女の興味に応えるように、返答した。


「じいちゃんがお金と一緒に遺してくれた言葉があります。『他人を助けられるような人間になってくれ』と。その時、偶然にも異世界転移の手段を手に入れた俺は、助けたいと思える人に出会えました。そしてその人は、より多くの人を助けようと願っていた。俺はそのために商売を始めたんです」

「金を稼ぐことは目的ではなく、手段ということじゃな。お前は祖父の言葉を守り、行動に移した。それは立派じゃな、ご立派じゃ。しかしな、トミオカ。死者を愚弄するつもりはないが、死の間際に遺す言葉とは実に自分勝手なもんじゃ。呪いのようなものと言ってもいい。何故そこまで、愚直に祖父の意思を継ぐ?」

「じいちゃんが俺にそうしてくれたからです。じいちゃんとは血が繋がっていない。でもじいちゃんは親のいない俺を、ここまで育ててくれたんです。血よりも濃い絆で・・・・・・だから俺はじいちゃんのように、人を助けたい。ちょっとのきっかけで、人は生きていくことができるから」


 冨岡がそう答えるとノノノカは右眉を下げた。


「養父ということか。お前の親は?」

「俺が幼い頃に亡くなったそうです。そして最近になってようやく、俺は自分の母親の名前を知りました。それが」

「シャーナ・ベルソード・・・・・・か」

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