第420話 冨岡という例外

 広げた風呂敷を整えている途中に、面倒になって丸め始めた美作。

 もちろんそれで冨岡が納得するはずもなく、説明の続きを求めた。すると美作は後頭部を掻いてから、気怠そうに口を開く。


「まぁ、そう言うなら説明するけどよ。それにしてもこんな夜中に始める話じゃなかったな。なんで今、話し始めたんだろうな、俺。はぁ」


 美作はわかりやすくため息を吐く。

 目の前で後悔されるのはいい気分ではないな、と冨岡は苦笑しながらも美作の言葉を聞いていた。


「話を進めるには、二つの前提が必要になる。疑問はあるだろうが黙って受け入れろよ? まず、源次郎さんは元々あっちの世界の人間だった。と言っても、その頃の記憶はほとんどなかったらしい。何せ源次郎さんが幼い頃に転移してきたんだからな」

「・・・・・・じいちゃんが異世界人? いや、でも・・・・・・」

「まぁ聞け。その頃、日本はちょうど戦後の混乱真っ只中だった。こっちに転移してきた源次郎さんは、戦争孤児として拾われ、この山周辺を持っていた冨岡家の子どもとして育てられたそうだ。戦後の混乱に乗じて、戸籍なんかの問題もそれほど難しくなかったんじゃないかな。その当時、源次郎さんが持っていた記憶は、自分が違う世界から来たってことくらいだったらしい」


 美作の口から出てくる言葉は、冨岡にとって衝撃的なもので、すんなりと受け入れられるものではなかった。

 血の繋がらない祖父が異世界人。それがショックなわけではない。ただ、あまりにも話が広がりすぎて追いつかないだけだ。

 だが、それを前提に考えると源次郎の遺した『優しさ』がしっくりくる。

 自分も他の人に助けられたからこそ、冨岡にも『他人を助けられる人間になれ』と遺した。優しさの継承は源次郎よりも前からあったものということである。

 

「じいちゃんは幼い頃に転移してきた・・・・・・だから鏡のことを知ってたんですね。でも、じいちゃんも元の世界に帰らなかった。いや、帰れなかった」


 これまでの話を総合すると鏡を使った異世界転移にはルールがある。

 自分のいた世界から『異世界』に転移した後、鏡は閉ざされ、二度と戻ることはできない。一度きりの転移なのだ。

 しかし、それに例外がある。富岡の存在だ。


「待ってください、でも俺は」


 冨岡が言いかけると、美作は言葉を割り込ませる。


「一旦聞けって言ってるだろ。まぁ、疑問はもっともだがな。次に話さなければならないのは、アンタの親についてなんだよ」

「俺の親・・・・・・え、知ってるんですか? 俺の親について」

「ああ、知っているぜ。そしてこの話を聞き終えれば、アンタの疑問は解消される。『どうして自分だけ、何度も異世界転移できるのか』って疑問はな」

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