第407話 進む道

 ローズとの話を終えたアメリアは、ダルクから子どもたちを引き取り、そのまま冨岡の元へ向かう。

 自分の気持ちを自覚したばかりの彼女は、なんとか鼓動を抑えようと深呼吸を繰り返していた。

 アメリアたちが近づいて来ていることに気づいた冨岡は、隣のホース公爵に声をかける。


「ホース公爵様、改めてご紹介しますね。アメリアさんとフィーネちゃん、こっちがリオくんです」


 手で示しながら紹介すると、ホース公爵は嬉しそうに目尻を下げた。


「おお、会いたかったよ。私とトミオカ殿を繋いでくれたのはアメリア殿と言っても過言ではないからな」


 そう言いながらアメリアに握手を求めるホース。

 アメリアとしては、自分が繋いだという意識はない。首を傾げながらも、失礼がないように握手を交わす。


「私が、ですか?」

「間接的に、だがね。アメリア殿がいなければ、トミオカ殿が飲食店を始めることはなかった。つまりローズの本心を聞くことも、こうして酒を酌み交わすこともなかったと言うことだよ。ありがとう」

「そんな、公爵様。私のような平民に礼を言うのはやめてください。それに、私は何もしていませんし」


 必死に首を横に振るアメリア。

 すると公爵は彼女を揶揄うように、冨岡に訊ねた。


「おや、アメリア殿はこう言っているが、トミオカ殿はどう思う?」


 冨岡の性格からして、そんなことを聞かれれば照れてしまう。だが、今日は違った。楽しい気分で酒を飲み、気が大きくなっている。


「そうですねー、確かにアメリアさんがいなければ、飲食店を始めるって気持ちにはならなかったかもしれないです。この場所を守るために始めたんですから」


 ほろ酔い気分の冨岡は、完成まで後少しの学園を眺めた。

 もう少しで目標が形になる。もう少しだ。

 これまでに得た人との絆に支えられ、ここまで来ることができた。

 冨岡の視線に釣られて、ホース公爵も同じ方向を向く。


「完成間近だと聞いている。しかし、トミオカ殿。大変なのはこれからだろう」

「ええ、俺もそう思ってます。学園の外側が完成しても、仕組みや運営など考えなければならないですし」


 多くの子どもたちの今と未来を救うには、これまで以上に資金が必要になる。商売にも力を入れ続けなければいけない。また子どもたちが安心して住めるような環境。そもそも、今を苦しんでいる子どもたちを探さなければならない。

 その後、子どもたちの未来のために、知識だけでなく技術を教える人材も必要になるだろう。

 もっと先のことを考えれば、就職先の斡旋もできるようになるべきだ。

 冨岡が頷くと、ホース公爵は学園に向かって自分の持っていたグラスを掲げる。


「商売、運営、教育・・・・・・さらには政治も関わってくる。貴族制の国において、平等を打ち出すことは難しい。それでも私は、この学園にこの国の未来がかかっていると思っているよ。そう信じている。だが、トミオカ殿。私には心配していることがある」

「心配ですか?」

「ああ、そうだ。これから進むべき道を考えれば、トミオカ殿は優しすぎる。トミオカ殿が進もうとしている道は、魔物が巣食う洞窟のようなものだ。一人では立ち向かえない時が、必ず来るぞ」

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