第236話 慣れれば雲の寝心地
フィーネから半分のクッキーと元気をもらった冨岡は、この先の苦労などこの二人となら乗り越えていけると確信する。
まずは目の前に見えている予定をこなすだけだ。
ありったけのやる気を胸に、冨岡は激動の今日を終える。
異世界の硬いベッドも慣れれば心地いいものだ。
コケコッコーと鳴く鶏も、チュンチュンと自己主張する雀も、カァカァと響かせる鴉もいない異世界。その代わりに鳥型の小さな魔物入るらしく「ホッポッポー」という聞きなれない鳴き声が聞こえてきた。
そんな違和感のある鳴き声と朝日で、清々しい朝を迎えた冨岡。
なんてものは理想だ。そんな風に目覚めれば、どれだけ爽やかで牧歌的だろうか。
残念ながら冨岡は、持っていた携帯端末のアラーム機能で目を覚ました。アラームに設定していた音楽は、冨岡が好きだったアーティストの歌である。
しかし不思議なもので、目覚ましアラームの音楽に設定してからはその曲が好きではなくなった。心地よい眠りから覚めなければならない、という強制感が刻まれ、その曲を聴くたびに起きなければならない気がしてしまう。
そんな効果もあり、清々しいかは別の話として冨岡はバッチリ目覚めた。
「さて、まずは仕入れか」
そう呟きながら身支度を整えた冨岡は、アメリアたちを起こさないよう静かに教会を出る。
先日、ハンバーガー用パンの仕入れをアメリアに任せてからは、その仕事は彼女が担当することになり、冨岡が考えるべきは『パン以外の食材』となった。
「パンの仕入れを任せられるのはありがたいよなぁ」
元の世界に戻るため、例の鏡がある裏路地へ向かいながらアメリアに感謝する冨岡。
そんなことを考えていると、ここ数日パン屋の店主メルルに会っていないことに気づく。
「これだけお世話になっているのに、メルルさんの近況も知らないなぁ。アメリアさんから聞いた限り、ウチに売ってくれてる分以外に新商品の開発とかしてるらしいけど。今度、時間がある時に新商品買いに行こう」
今でさえ様々な予定が詰まっているというのに、その先のことを考えながら冨岡は例の鏡を通り、元の世界に戻った。
文字通り、実家に帰ってきた冨岡が玄関を確認すると、大きめのダンボールが三箱置かれている。
「お、ちゃんと美作さん買ってきてくれたんだな」
その段ボールの上に便箋が置いてあり『冷蔵・冷凍のものはそれぞれ冷蔵庫・冷凍庫に入れてある。料金は指示通りもらって余りは次回に回す。美作』と書かれていた。
冨岡はすぐさまダンボール、冷蔵庫、冷凍庫の中身を確認し、依頼した商品が揃っていることを確認。
「これならこれからも買い出しは美作さんに任せていいな。ありがたい。出費は増えちゃうけど、その分他の仕事ができるし、長い目で見れば得なはずだ。うん・・・・・・得だと信じたい」
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