第178話 貧民通り

 綺麗な瞳を輝かせるアメリア。

 それが彼女の心からの称賛であると感じた冨岡は少し照れながら、小さく笑む。

 心を優しく撫でられたかのようにくすぐったい。


「ははっ、アメリアさんがそう言ってくれるなら、自信が持てますよ。それじゃあ営業時間を夕方までにして、残ったハンバーガーは配りに行きましょう。でも無料で配ります、なんて大々的に宣伝したら買ってくれた人に申し訳ないですよね。無料でもらえるんだ、ってなれば買う意味ないですし・・・・・・」


 冨岡がそう悩んでいると、アメリアは両手の指先を合わせて口角を上げた。


「それなら問題ありませんよ!」

「へ?」

「大きな問題を起こして無くなってしまったとはいえ、私はこの教会で働いていたんですよ? 困っている方に食事をお配りすることだってありました。そうですね・・・・・・大々的に宣伝せずにこちらから出向くことで、お金を出して買ってくれた方にも『慈善活動をしているんだ』って納得してもらえるはずです。教会の活動なんだ、って」


 元々この教会は『白の創世』という宗教団体のもの。

 裏で悪事を働いていたとはいえ、慈善活動はしていた。その頃のノウハウを持っているアメリアがそう言うならば、と冨岡は了承する。


「じゃあそうしましょう。ん? 出向くって言っても各家庭を回っていたらかなりの時間がかかりますよね?」

「それも大丈夫です。あまりこの呼び方が好きではないのですが、貧民通りと呼ばれる場所がありまして。とある商人様がお金を出し、困っている方が無料同然で住めるように集合住宅をお造りになった場所です。そこでお配りすれば慈善活動だと思われるはずですよ」


 困っている人が住んでいる通り、貧民通り。

 おそらく俗称だろうが、そう呼ばれているのなら無料で配っていても問題はないだろう。

 正式に買った者がずるいと思う可能性も低い。

 これでようやく明日の流れが決定した。通常通り移動販売『ピース』の営業を行い、夕方で閉店する。その後、貧民通りで困っている人にハンバーガーを配ってから冒険者ギルドで誰か雇えないか相談。

 まだこれからの展望について話したいことはあったが、富岡には買い出しが残っている。

 仕方がないので話を切り上げた。


「明日のことはそれで決定ですね。じゃあ、俺は買い出しに行ってきます。朝までには帰ってきますから、パンのことはお願いしますね」

「はい、お任せください。どうかお気をつけて」

「行ってきます」


 冨岡はそう言って、教会を出る。

 もちろん行き先は現代日本。異世界と冨岡の家を繋ぐ鏡を通り転移するのだ。

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