第156話 盟友
冨岡が軽快に頷いたことで、話したい欲求が加速したダルクは更に続けた。
「いやいや、歳を取ると昔話が捗っていけませんな。弟とは様々な国で、様々なことを学びました。礼儀作法はもちろんのこと、郷土料理やその国独自の文化など・・・・・・どれも良き思い出です。これも今となっては良き思い出なのですが、弟のシラムは何をやらせても優秀でして、私よりも優秀な執事になっているでしょうな。まぁ、ジョークに関しては私の方が上ですが」
何で競い合ってるんだよ、と言葉にはせず苦笑する冨岡。
それでも話を聞き続けているのは、ダルクがやけに楽しそうだったからだ。弟の話をしている時は終始表情が柔らかく、まるで古いアルバムでも眺めているかのようである。
穏やかな思い出話をするダルクの姿は祖父、源次郎の記憶と重なり、冨岡まで温かい気持ちになった。
「弟さん・・・・・・シラムさんはダルクさんにとって兄弟で盟友で好敵手ってところですね」
「ほっほっほ、好敵手ときましたか。確かに競い合うことで研鑽できた部分はございます。料理などは互いの作ったものを食べ合い、批評しておりましたな。そのように世界中の料理を学んできた私ですが、トミオカ様がお作りになったオムライス? については何も知りませんでした。いやぁ、まだまだ足りませんな、勉強が」
突然の倒置法が気になりながらも冨岡は乾いた笑いを喉の奥から漏らす。
「オムライスは卵料理の中でも珍しいかもしれませんね。多分、オムライスの派生ですし」
特段料理に詳しいというわけでもない冨岡だが、オムライスよりも先にオムレツが存在したことくらいはわかる。つまりオムライスはオムレツが進んだ先にある料理だ。中世程度の文明であるこちらの世界でオムライスにたどり着くのはまだ難しいだろう。
そもそも米すらほとんど知らない状況なのだから、オムライスを知らないのも無理はない。
だが、執事としての矜持がそうさせるのか、ダルクは一瞬悔しそうな表情を浮かべる。
「私がオムライスさえ知っていれば、ローズお嬢様にあのような思いをさせることはございませんでした。もっともっと自分自身を磨かねばなりませんね」
「途轍もない向上心ですね」
「今の自分に満足してしまうことほど怖いものはないでしょう。その場に止まるのは棺桶に入ってからと決めておりますから」
当然のようにそう答えるダルクの言葉は冨岡に刺さる。
今に満足すれば、進歩はない。
冨岡自身もっと進みたいと思っている中、同じように上を目指している者の存在は素直に嬉しかった。
「じゃあ、俺に教えられることがあればいつでも聞いてください」
冨岡がそう言うとダルクは少し驚いたように聞き返す。
「よろしいんですか?」
「もちろんですよ。その代わり、俺にもダルクさんの知識を分けてください。世界中を巡ったダルクさんの知識と知恵が欲しいんです」
「私でよろしければ、いつでも」
ダルクの答えを聞いた冨岡は右手を差し出した。
「これで俺たちは仲間・・・・・・盟友ですね」
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