第124話 冨岡の策略

 ダルクはキュルケース家に仕える他の使用人に声をかけ、冨岡を『元・白の創世』教会へ案内させた。

 先ほど冨岡が乗せられたフォンガ車である。

 冨岡の背中を見送ったローズは呆れたように呟いた。


「それにしても随分厄介な男を寄越したものね、お父様も」

 

 珍しくローズが本心で話していると察したダルクは優しい大人の笑みを浮かべながら呟きに対して呟く。


「これまでにない方ですね。さすがは旦那様が選ばれた方です」

「そんなの、あの人が売っていたハンバーガーに惚れただけじゃないかしら」

「そうでもありませんよ。旦那様が惚れたのはローズお嬢様が完食されたことでしょう。旦那様はいつでもローズお嬢様のことを考えてらっしゃいますよ」

「どうかしらね・・・・・・忙しい公務で家族の時間が取れない罪滅ぼし、ってことじゃないのかしら」


 そう話すローズの言葉には寂しさのようなものを感じた。もしかすると彼女はホースにとって邪魔なのではないかと考えているのかもしれない。

 どう足掻いてもホースは公爵である。この国では権力もそれに付随する責任も持ち合わせている。

 どれほど家族のことを愛してしても、思い通りにならないことは多いだろう。

 ローズ悲しみを朧げながらにも気づいているダルクは、気休めにしかならないとわかっていても言葉を続けた。


「このダルク、無駄に歳をとっているわけではありません。トミオカ様は旦那様のご意向よりも大切になさっていることがあると存じますよ」

「大切なこと?」

「ローズお嬢様が幸せに笑う未来です」

「・・・・・・変なの」


 そう言いながらもローズはまんざらでもないらしく、少しだけ頬を赤らめる。

 彼女自身も気づいていないが、これまで紹介された講師に比べれば冨岡に心を許し始めていた。

 その理由はこの世界のルールを知らないために、貴族様相手に礼節を重んじなかったことにある。等身大で接する冨岡になんらかの近さを感じたのだ。


 一方その頃、ダルクに紹介されてフォンガ車に乗り込んだ冨岡は、この世界に持ち込んだ物品を思い出す。

 あらゆる状況に対応できるよう、買えるものはほとんど買い込んできた、その中にはさまざまなお菓子やインスタント食品、ちょっとしたボードゲームのようなものも含まれていた。


「ふっふっふ、現代日本の美味や娯楽の魔力を舐めてもらっては困るな。さぁ、現代商品で異世界無双の始まりだよ」


 一度教会に戻った冨岡は昨日用意した様々な物品や食料から目ぼしいものを集めてリュックに詰め込む。


「これさえあればローズお嬢様の心を掴んで話さないでしょう。それに気になるのはホース様の前ではしっかりしていること。目的があっておてんばなはわがままお嬢様を演じている可能性もある。どうやってその壁をぶち破るか・・・・・・娯楽大国である日本人の腕の見せ所だね」


 用意を済ませた冨岡は再びキュルケース家を目指した。

 心に「価値観を変えてみせると」と覚悟を決めて。

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