第106話 幸せの上限
「もう明日の準備が終わってるなら、もう休みましょうか? その前に追加で持ってきた食材だけ冷蔵庫に片付けておきますね、俺」
「あ、私もお手伝いしますよ」
冨岡が食材を冷蔵、冷凍、常温に仕分けアメリアが冷蔵庫に運ぶ。記載されている日本語を読むことができるのも、食材の保存方法を理解しているのも冨岡だけだ。疲れているアメリアに運ばせるのは、とも思ったが仕方がない。
「それにしてもすごい量ですね。ほとんどが何に使うものなのかわからないですけど」
アメリアは冨岡から渡された常温保存の食材を厨房へと運ぶ途中に呟く。
この先、何を売っていこうかと考えていた冨岡は、手を止めて優しく微笑みながら答えた。
「今日、色々経験してみて思ったんです。もっと本格的に商売をして稼いでおかなければ身を守ることもできません。だから様々な可能性を追求しようと思いまして」
「そうですね。悲しいけれど、生きていくためには地位とお金が必要です。何も持っていなければどれだけ理想や夢を持っていても、小さな子ども一人養っていくことができません」
その言葉はフィーネのことを言っているのだろう。
まともな食事も将来につながる教育を受けさせてやることもできない。アメリアは冨岡より先にその問題に衝突していた。
もちろん収入を得たいと思う気持ちは冨岡よりも強い。
「それでもアメリアさんはフィーネちゃんをここまで育ててこられたじゃないですか。それだけでも百点ですよ。ここからは俺もいますから、百億点目指して行きましょう」
「ふふっ、何ですかその点数。そうですね、これまでのことを憂いても仕方ありませんね。トミオカさんのおかげで今日、得たこともないほどの収入がありましたし、このまま行けばフィーネを幸せにしてあげられます」
「このまま、じゃないですよ」
「え?」
アメリアは手を止めて顔を上げ聞き返す。
「このままじゃありませんよ。今日以上にもっともっと稼いでいきましょう。幸せに上限はないですからね。それにフィーネちゃんだけでなくアメリアさんも幸せになってほしいです」
「わ、私はもう・・・・・・その充分、です・・・・・・」
突然冨岡から『幸せにしたい』と言われたアメリアは頬を赤らめて答えた。
その声があまりにも小さく、聞こえていなかった冨岡は首を傾げる。
「ん? 何ですか?」
「い、いえ何でもありません。早く片付けて休みましょうね」
「そうですね」
手早く食材を片付け、冨岡とアメリアはその日を終えた。
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