第91話 助け合い

 意識を失い、光の壁にもたれかかるように倒れ込む男。

 状況から察するに男の魔法は壁を破壊するどころか弾き返され、その威力にやられてしまったらしい。連続で爆発を受けた男は文字通り『自業自得』なダメージを負った。


「助かっ・・・・・・た?」


 恐る恐る冨岡が確認する。するとアメリアはまだ震えが止まらぬ手でフィーネを抱きしめながら微笑んだ。


「ほら、大丈夫でした」

「け、結果論じゃないですか。もし本当に大丈夫だったとしてもちゃんと逃げてくださいよ。万が一ということもあるでしょう」


 冨岡が不満を漏らすとアメリアの顔からは笑みが消える。彼女は少し怒った様子で冨岡に言い返した。


「逃げませんよ。冨岡さんは私たちのために命を懸けてくださいました。それなのに、自分だけ助かろうなどとできますか? 私たちは助け合うのでしょう? フィーネも同じ気持ちだと思いますよ」


 言いながらアメリアはフィーネに目をやる。小さな顔をアメリアの胸に押し付け、震えながらも左手は冨岡の服を握っていた。

 彼女なりに冨岡を離さないようにしているのだと推測できる。


「フィーネちゃん・・・・・・」


 冨岡が小さな声で名前を呼ぶとフィーネは顔を上げて、周囲を確認した。


「もう終わった?」

「ええ、終わりましたよ。フィーネのおかげです」


 怯えた心を落ち着かせるようアメリアはフィーネの頭を撫でた。

 自分が守らなければ、と思っていた冨岡だが、二人ともに守られていたことを知る。一瞬、情けなさを覚えるが普通に考えれば普通の人間が魔法に対抗できるはずがない。仕方ないとまでは言わないが、普通の男である冨岡が戦いを生業としている傭兵に真っ向から戦って勝てるはずがなかった。

 大切なことは自分のできることをするということ。それが冨岡にとって戦いではなく、彼女らの生活と未来を守ることだった。それに気づいた冨岡はアメリアに謝罪する。


「すみません、アメリアさん。ううん、ありがとうございます。助かりました」

「ふふっ、わかればいいんですよ。それにお礼ならフィーネに言ってあげてください」


 アメリアはそう言って優しい笑顔に戻った。彼女の言う通り、今回大活躍したのは謎の力に目覚めたフィーネである。冨岡はフィーネの頭を撫でながら微笑んだ。


「ありがとう、フィーネちゃん。助かったよ」

「ふふふ、フィーネえらい? すごい?」

「ああ、めちゃくちゃ偉いし凄かったよ。そういえばあの力って一体・・・・・・アメリアさんは『聖女の奇跡』と呼んでいましたけど」

「フィーネわからないの」


 自分が何をしたのか理解していない様子のフィーネ。

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