第74話 私の夢でもある

 冨岡、アメリア、フィーネによる教会学園計画。

 ようやく動き出せるということで、冨岡はメルルに大量のパンを発注した。その数に苦笑いを浮かべ、この先の大変さを思うメルルの表情を冨岡は見逃さない。

 しかし、メルルは自分のパンが評価されること自体は嬉しいらしく飛び跳ねるほど喜んでいた。

 冨岡がメルルと打ち合わせている時間も無駄にはしない。アメリアとフィーネは教会に停めた屋台の中でハンバーグのタネを作る。

 大量のミンチを冷凍の状態で仕入れ、使う分だけを解凍していた。初日の販売目標は百個。資金源である百億円とかけて冨岡が雑に考えた目標だった。


「百個も売れるでしょうか?」


 と心配するアメリアの声もあったが、冨岡には自信があった。一体、世界中で一日に何個ハンバーガーが食べられているだろう。ファストフードの代表格ハンバーガー。それを世界中で独占できるのであれば百個くらい売れるはずだ。

 もちろん、仕込みのためには包丁を使うことになるのだが、フィーネには触れさせず、アメリアに頼んである。みじん切りが必要な場合はミキサーが使えるように使用方法を教えてあった。準備の準備は万端である。

 フィーネはタネを混ぜる係だったが、途中で疲れたらしく冨岡が持ってきたお菓子を食べながら眺めていた。

 冨岡がメルルズパンから戻り、アメリアとの作業を代わると言ったのだが、アメリアは首を横に振る。


「私もハンバーガーの作り方をしっかり覚えたいので、可能な限り任せてください」

「でも、結構大変じゃないですか? 腕力も要りますし」

「ふふっ、これはトミオカさんだけの夢じゃないんですよ? 私の夢でもあります。私のも頑張らせてください」


 生きるためだけに働くのではなく、未来のために働く。アメリアはそんな現状を楽しんでいるようだ。

 冨岡が手持ち無沙汰になると、アメリアがフィーネを指差して言う。


「もしよろしければ、フィーネに計算を教えてやってくれませんか。計算ができれば、屋台のお手伝いもできると思いますし、将来どんな仕事に就いても役立つはずです。商人であるトミオカさんなら計算もできるでしょうし」

「もちろんです」


 二つ返事で了承する冨岡だったが、フィーネは勉強だと察知した瞬間こっそり逃げ出そうとする。


「こら、フィーネ。トミオカさんからもらったお菓子を食べたでしょう。その分は頑張って勉強するんですよ」

「うー」

「それに勉強を頑張れば、美味しい晩御飯を用意してあげますからね」


 厳しくも優しいアメリア。本当の親子のようだと冨岡は微笑んでから、屋台の中に椅子を二つ持ってきた。

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