第50話 老婆ビエンナと通貨

 源次郎から受け継いだ山が百億円で買い取られることが分かった時と同じように驚いた冨岡だったが一つの疑問が残る。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。この世界に・・・・・・じゃなくて世の中に金貨ってものが存在するのなら、金が金貨以上の価値を持つのはおかしいじゃないですか。大きさ的にも金貨の方が大きいでしょうし」


 冨岡が疑問を言葉にすると老婆は呆れたようにため息をついた。


「一体何を言ってるんだい、あんた。金貨に零れ星・・・・・・金は使われていないよ。むしろ逆さね。零れ星が富の象徴だからこそ、それに似せた通貨を使っているんだ。金貨は銀に特殊な魔法加工を施しただけのもの。なんだい、最近の若者はそんなことも知らないのかい?」

「金貨は金に似せた銀貨ってことなんですね。じゃあ、物の価値自体は銀貨と変わらないのか」

「当たり前だよ。やれやれ、お金ってものを知らないんだねぇ。通貨なんてものは何だっていいんだよ。世界中の人間が共通の価値を見出せば、道端の石ころだって通貨になり得る。大切なのは信用さ。その物にそれだけの価値があるという信用があってお金ってものが存在している。そりゃ時代や地域によって物価なんてものは変わるんだから常に一定ってわけじゃあないが、統一した金貨や銀貨にすることで目安としての価値が数字になっていてわかりやすいだろう」


 老婆は金貨について何も知らない冨岡にそう教える。

 なるほど、と納得した冨岡が頷くと老婆は更に話を続けた。


「まぁ、無駄に歳を食ってる老婆の話なんて耳から耳へと流してくれりゃあいいさ」

「いえ、そんな。勉強になりました。ありがとうございます」


 素直に礼を言う冨岡。そんな冨岡の姿勢を気に入ったのか老婆は優しく微笑む。


「へぇ、こんな話でも敬意を払えるのかい。大体の男は私のような老婆の話を煙たがるもんだがね。ふむ、見たところ肉体労働をしているような感じでもない。金の価値を知らないってことは貴族や大商人ってわけでもなさそうだね。どんな人間なのかは知らないがその子も懐いている。少なくとも悪い人間じゃあなさそうだ」


 言いながら老婆はフィーネを指差した。

 突然、老婆の視線を受けたフィーネは首を傾げてからこう言い返す。


「うん? トミオカさんはいい人だよ。昨日は美味しいご飯を食べさせてくれたの」

「おや、そうかい。ひっひっひ、その子の信頼を買わせてもらおうかね」


 老婆はそう言いながら冨岡に視線を戻した。

 話の意味がわからずフィーネのように首を傾げた冨岡に老婆は話を続ける。


「この店じゃあ、こんな代物買ってやれない。だが、何となくあんたとの縁とその子の信頼を大切にしてやりたいと思ったのさ。金を欲しがっている貴族を紹介してやろうってことさね。そいつなら大金貨百枚くらい出すはずだよ」

「ほ、本当ですか?」


 冨岡が聞き返すと老婆は不敵な笑みを浮かべた。


「ひっひっひ、その代わり手数料はいただくよ。まぁ、それはあんたの気持ちでいい。あとは私のところで買い取れそうな珍しいものがあればまた売ってくれ。どうだい?」


 どうやら老婆は冨岡自身を気に入った上で、この先の付き合いを考えているらしい。

 冨岡としても自力で金を買い取ってくれる場所を探さなくても済む利点がある。この老婆との付き合いもこの世界で生きていくのなら役に立つはずだ。

 考えるまでもなく答えは一つ。


「はい、よろしくお願いします」


 頭を下げながら冨岡が答えると老婆が右手を差し出してきた。


「これで契約成立だ。せいぜい稼がせておくれ。私の名前はビエンナだ」

「冨岡 浩哉です」


 握手を交わす冨岡と老婆ビエンナ。

 これで当面の資金は気にしなくても良さそうである。

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