第28話 フェニルエチルアミンという媚薬?

 フィーネと同じようにチョコレートを頬張るアメリア。やはりチョコレートのような甘味の強いものはほとんど食べたことないらしく元々大きい目をさらに開いて感動を表現する。


「うわぁ、甘い。本当に身体中がとろけてしまうほどの甘さですね。それでいて香ばしさとほろ苦さもあって甘さが引き立っています。これがチョコレート・・・・・・これを奪い合って国同士が争ってもおかしくないほどですよ」

「ははっ、それは言い過ぎです。でも美味しいですよね、チョコレート」


 冨岡が軽く笑うとアメリアは強く首を横に振った。


「言い過ぎなんかじゃありません! 本当にこの甘みは人を狂わせますよ。何だかポワポワしてきたような気もしますし・・・・・・」


 そう話すアメリアの目は確かにとろんと酔ったようになっている。

 もちろんアルコールのような類は入っていない、ただの板チョコレートだ。どれだけ食べても酔うわけがない。

 

「え、ポワポワってチョコレートでそんな・・・・・・」


 そこまで言ってから冨岡は昔何かで見たチョコレートの効能を思い出す。それはチョコレートが媚薬のような効果を持つというものだ。

 冨岡の知識は浅いものだが、確かにチョコレートは媚薬とも言えなくない効果を持っている。チョコレートに含まれる成分『フェニルエチルアミン』は別名『恋の媚薬』と呼ばれ、『フェニルエチルアミン』は相手にドキッとした瞬間に分泌されるもの。つまり擬似的に恋に落ちたような感覚を得ることができるのだ。

 当然ながら食べ慣れている者であればそれほど効果はないだろう。しかし、人生で初めて食べるチョコレートならば気持ちが昂ることもあり得なくはない。いや、それにしても効きすぎているようにも感じる。ここが魔法の存在する異世界だからだろうか。


「まさか、本当に媚薬効果が・・・・・・アメリアさん、しっかりしてください」


 冨岡が慌てて呼びかけるとアメリアはふわふわした状態で距離を詰めてくる。


「ふぇ? どうしたんです、アトミオカさん」

「冨岡です」

「トミオカさん! ふふっ、トミオカさんですね。何だか私、ドキドキしちゃってトミオカさんの唇がとても美味しそうに見えるんです。あれ? 変なことを言っていますか、私」


 言いながらアメリアは潤んだ熱い瞳で冨岡を見つめた。

 熱視線に緊張しながらも冨岡はアメリアを落ち着かせようとする。


「ちょっ、アメリアさん! 落ち着いてください、変なこと言ってますよ」

「なぁにが変なんですぅ? だって美味しそうなんですよ。ふふっ、何だか幸せな気持ちになってきました。それに何だか暑いですね」


 多幸感に包まれているだろうアメリア。これもまた『フェニルエチルアミン』の効果だった。

 アメリアの言動に戸惑う冨岡だったが、彼は忘れている。もう一人生まれて初めてチョコレートを食べた者がいることを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る